「茶のしずく」石鹸アレルギー損害賠償訴訟

弁護士 栗山 博史

2013年3月8日

1 はじめに
 石鹸を使い続けたら小麦アレルギーになってしまった。2010年から2011年にかけて、そのようなケースが全国で多発し、大きく報道されました。
 「茶のしずく」石鹸を実際に使用して、小麦アレルギーになってしまった被害者たちが、石鹸の製造販売業者である(株)悠香と(株)フェニックス、そして、石鹸の中に含まれている加水分解小麦(アレルギー原因物質)を製造した(株)片山化学工業所の3社を相手に損害賠償を求める裁判が、今、全国各地の裁判所に係属しています。
 神奈川でも、2012年4月、27名の被害者の方々が、3社を相手に損害賠償を求める裁判を横浜地方裁判所に起こしました(第一次提訴)。その後、2012年12月には、引き続き30名の被害者の方々が提訴しました(第二次提訴)。したがって、原告は現在57名です。私は、神奈川の弁護団の一員としてこの訴訟の代理人として活動していますので、事案の内容や裁判の状況を簡単にご紹介したいと思います。

2 被害の内容
 「茶のしずく」石鹸は、これを使えば肌がきれいになる、という謳い文句でテレビ、雑誌等で宣伝された通信販売の商品です。購入された方々は、ほぼ毎日、朝か夜、あるいは、朝と夜2回という感じでこの石鹸を使って洗顔をしました。石鹸を使い続けていた後のある日、パンやパスタなどの小麦製品を食べて運動したところ(徒歩や入浴でも)、急に、目が開けられないほどに瞼が腫れ上がり、顔はパンパンになって痒くなりました。そして、人によっては、じんましんなどの皮膚症状、腹痛・嘔吐などの消化器症状、ゼーゼー、息苦しさなどの呼吸器症状が同時多発的にやってくるアナフィラキシー症状が出ました。さらに酷い人では、呼吸困難、血圧低下、意識レベルの低下というショック症状に……。
 このように、「茶のしずく」石鹸を使用し続けた結果、これまで全く小麦アレルギーのなかった方々の身体が、小麦アレルギー体質になり、実際に小麦を摂取し、その後、特に運動をすることによって、アナフィラキシー症状が誘発される(小麦依存性運動誘発アナフィラキシー)という人が相当数出てきたのです。
 このような症状が一旦出てしまうと、命の危険さえ感じます。このような症状を一度経験した人は、恐怖心・不安から、小麦製品を食べて生活することができません。パン、麺類、お菓子など、明らかに小麦が含まれている製品を食べられないのはもちろん、ごくわずかでも小麦が含まれている食品を避けて生活しなければならず、大変不便な生活を送らざるを得なくなります。
 小麦は、身のまわりの食品の多くに含まれています。それを一切摂取できないというのは、どれほどの苦痛でしょうか。
 「茶のしずく」石鹸を使用したことによって、このような身体になり、不自由な日常生活を強いられるようになった。この点について、石鹸の製造業者に対して損害賠償を求めることにしたのです。

3 製造物責任訴訟(PL訴訟)での攻防
 私たちは、このように、もともとアレルギー体質でなかった人たちを、アレルギー体質に変えさせてしまうような「石鹸」は、製造物責任法にいう「欠陥」製品、すなわち、このような製品が通常備えるべき安全性を欠いた製品であり、これを製造した業者には損害賠償責任がある(製造物責任法は、欠陥製品を使用したことによって損害が発生した場合には、製造業者に過失がなくても損害賠償責任があると定めています)と訴えています。
 しかし、裁判の中では、(株)悠香などの被告は、そもそも「茶のしずく」石鹸が「欠陥」製品なのか、というところで争ってきています。
 現代の世の中は、アレルギー体質の人が多い。したがって、アレルギー症状は、いたるところで起こるものだ。たとえば、乳製品のアレルギーのある人がアレルギー症状を発症したからといって、乳製品そのものが欠陥製品ということにはならないだろう。そばアレルギーのある人がアレルギー症状を発症したからといって、そば自体が欠陥製品ということにはならないだろう。このようにアレルギーというのは、アレルギー物質(抗原・アレルゲン)を摂取する人がわの要因で発生するものなのだから、製品の欠陥性の問題ではないのだ、と。
 ううん、なるほど……などと思われるでしょうか。
 私たちは、もともとアレルギー体質であった人がアレルゲンを摂取してアレルギー症状が発症した場合と、もともとアレルギー体質でなかった人が、アレルギー体質に変容させられて、アレルギー症状を発症するようになってしまった場合とは全く異なると考えています。
 原告の方々は、それまで小麦アレルギー体質ではありませんでした。しかし、「茶のしずく」石鹸という、加水分解小麦(アレルギー原因物質)を含んだ石鹸を使って繰り返し入念に洗顔することにより、加水分解小麦が皮膚や粘膜を通じて体内に吸収され、これを感知した細胞が、小麦に対して反応する抗体を作らせて、それ以降、体内に吸収された小麦に対して、過剰な身体反応を呈するという状態にさせられてしまったわけです。しかも、そういう人がたまたま数人いたというレベルではありません。報告されているだけで、2013年1月20日時点で、年齢・性別を問わず、全国で1769例も存在するのです。
 石鹸も、石鹸に含まれた原因物質も、ともに、人工的な製造物なのですから、それが「欠陥」製品であることは明らかだと考えます。

4 おわりに
 この裁判の争点は、「茶のしずく」石鹸やそれに含まれる原因物質の「欠陥」性のほか、小麦アレルギー体質というものが、そもそも治癒・寛解しないものなのか、という「損害論」などもあります。あるいは、今後、被告側から、製品を市場の流通に置いた時点の科学または技術に関する知見では欠陥を認識できなかったという、「開発危険の抗弁」が主張される可能性もあります。
 まだ裁判は始まったばかりです。もう少し時間がかかりそうですが、全国の弁護団と連携しながら、最後には、被害者の方々の苦しみを少しでも癒すことのできるような解決が得られるよう、力を注いでゆきたいと思います。

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