弁護士の事件簿・コラム

離婚をお考えの方へ

弁護士 野呂 芳子

1 はじめに
 誰でも、結婚する時は、幸せな家庭をつくることを願い、夢見ていることと思います。
 その結婚生活がうまくいかなくなるのは、大変悲しいことです。
 しかし、結婚生活を維持するためのどんな努力も実を結ばず、「もはや離婚しかない。」と決意した時、どうしていけばよいでしょうか。

2 協議離婚
 離婚に際しては、取り決めないといけないこと、あるいは取り決めておいたほうがいいことがあります。
 お子さんがいる方の場合は、まず、どちらが親権者になるかを決めないと離婚届が出せません。また、親権者が決まったら、養育費や面会交流についても、離婚の前にきちんと決めておくことが望ましいでしょう。
 あとは、お子さんの有無に関わらず、財産分与(結婚期間中2人で作った財産を、原則として1/2ずつ分ける)、慰謝料(原則として、結婚生活を破綻させた原因を作った方が支払う)、年金分割などが、離婚に際して取り決めておいた方がよい項目です。
 親権と異なり、養育費、財産分与、慰謝料、年金分割は、離婚後も一定期間は請求可能ですが、お互い再出発した後に、以前の配偶者とこうした問題を話しあうよりは、やはり離婚の際に、全て取り決めておくにこしたことはないと思います。
 こうした様々な項目を、当事者同士で話しあい、合意できれば、2人で離婚届を作成し、提出する「協議離婚」が可能です。
 しかし、そもそも当事者同士の信頼関係が全く崩れているなどの事情で話し合いすらできない、あるいは話し合っても合意に達しない場合などは、次の段階として、「離婚調停」を家庭裁判所に申し立てる手段があります。
 ごく普通の方、特に女性は、「裁判所」というとやはり心理的に大きな抵抗があるものだと思いますし、「できれば協議離婚で。」とお考えになることが多いと思います。
 そのお気持ちはよく理解できます。
 ただ、協議離婚にこだわるあまりに、話し合いが何年間も堂々巡りを繰り返して進展しないこともありますし、そもそも双方の気持ちの食い違いが大きいからこそ「離婚」まで考えるようになるわけですから、「協議を続けていても埒があかない。」と不安を感じられたような時は、協議を続けるべきか、調停申し立てに踏み切るべきか、一度弁護士に相談されてみることをお勧めします。

3 調停離婚
  「調停」というのは、いわば家庭裁判所に仲立ちしてもらう「話し合い」です。「調停委員」という民間から選ばれた40歳以上の2人の男女が、当事者双方から話を聞き、合意に達することができるよう、双方の言い分を調整していく手続です。
 調停では、申し立てた側(申立人)と、申し立てられ側(相手方)は、待合室も別で、調停委員と話をするのも交替ですから、原則として、顔を合わせることはありません。
 期日は、「概ね月1回」と言われていますが、実際には、夏は裁判所の夏季休廷期間があったり、3月末から4月始めは、裁判官の移動時期があったりと、期日が入りにくい期間があり、しかも、第2回目調停からは、2人の調停委員と当事者双方の都合を聞いて期日を決めるので、横浜家裁でも、なかなか月1回ペースでは入りにくいのが実情です。
 また、調停は、何回やったら終わり、という回数制限はありません。当事者が合意する見込みがあるうちは続けますし、「もうこれ以上いくらやっても平行線で、合意に達する見込みがない。」と裁判所が判断した場合は、不調(不成立)で終わります。例えば、一方が離婚を望んでいるのに、相手方が、「絶対に離婚に応じない。」と言い続けたり、そもそも調停に不出頭を繰り返したり、また、離婚自体には同意しても、条件面でどうしても折り合わなかったりした場合です。調停は、あくまでお話し合いであり、裁判所は、当事者に結論を強制する権利はありませんので、当事者同士の合意ができなければそれで終わりなのです。
 私自身の経験からいえば、1年を超えて長期化するようなケースは、先ず1つはお子さんの親権や面会を巡って双方の気持の食い違いが大きいようなケースです。こうした場合、双方の意向を調整するために、裁判所にいる「調査官」という専門職の方が、家庭訪問したり、お子さんと会ったりする「調査」という手続が入ることがあります。
 あとは、財産分与の対象となる財産が多岐に亘ったりするケースも、財産の調査や整理で時間がかかることがあります。

4 裁判離婚
 協議も調停もうまくいかなかった場合、最後の手段として、裁判離婚があります。
 調停が不成立になっても、自動的に裁判になるわけではなく、離婚を望む側が、改めて、裁判を起こさなければなりません。(勿論、起こす起こさないは自由です)。
 裁判では、最初に、離婚を望んで裁判を起こした側が、「訴状」という、離婚を請求する事情等を書いた書面を提出し、裁判を起こされた側は、「答弁書」という、訴状に対しての反論等を提出し・・・と何度か書面や証拠を提出し合ったあと、尋問を行い、判決、というのが原則として予定されている手続です。
 しかし、実際には、裁判になっても、皆が皆、尋問までいくわけではありません。
 というのも、裁判所も、根本的には「こうした離婚問題などの家庭問題はできれば話し合いで解決することが望ましい。」という考え方をもっていますので、裁判の早い段階から、双方に「和解」、すなわち話し合いで離婚する余地がないのか、打診していくことがよくあるからです。
 強制権限のない調停と異なり、最後には「判決」をだす立場にある裁判官が双方を説得することの重みや、あるいは、調停と異なり、書面での応酬をすることによる様々な疲労感など要因はいろいろあるでしょうが、調停では不成立でも、裁判になってから、話し合いで離婚するケースは少なくありません。
 一方で、こうした和解もできず、尋問、判決、どちらかが控訴して高裁へ、最後は最高裁へ・・というケースもあります。高裁までいけば、どうしても、当初の調停(あるいは協議)開始から数年がかりになります。

5 最後に
 冒頭にも書きましたように、幸せになるための結婚が、離婚という事態に至るのは大変悲しいことです。
 それでも離婚が避けられない場合も確かにあります。
 そうした場合、当事者の方も、また当然、弁護士も、大人としてまず忘れてはならいことは、お子さん方への影響を最小限にするにはどうしたらいいか、だと思っています。
 また、離婚は、離婚を求められた側のみならず、離婚を求める側にとっても、精神的な辛さは大きいものです。時には「自分の努力が足りなかったのではないか。」と自分を責めたり、子供の将来や自分の将来に不安を感じたり、もうどうしようもない過去の行動や選択をあれこれと悔やんだりと、苦しまれる方は非常に多くいらっしゃいます。
 離婚手続きが長期化すれば、こうした苦しみも一層です。
 しかし、「明けない夜はない。」 法的手続は、必ず終わる日が来ます。
 その後、元依頼者の方が、少しづつでも、精神的な痛手から回復され、笑顔を取り戻され、元気になられたご様子が伝わるお手紙やお写真などくださると、私も、心から安堵し、嬉しくなります。
 元依頼者の方々を始め、離婚という辛い経験を経られた方々が、1人でも多く、よい再出発をしてくださることを、常に願ってやみません。

「弁護士の事件簿・コラム」一覧へ »