「未成年後見人」について

弁護士 野呂 芳子

2020年12月15日

1 はじめに
 「未成年後見」という制度は、「成年後見」に比べ、あまり知られていないかと 思いますので、本日は、この制度についてご紹介します。

2 「未成年後見人」は、どのような制度か?
 未成年者は、財産を管理してもらったり、監護・教育をしてもらったりといった、保護を受けることが必要な存在です。こうした未成年者保護は、原則として親権者が行うのですが、未成年者に、
①親権を行う者がないとき
又は
②親権を行う者が管理権を有しないとき
には、親族等の請求により、家庭裁判所(以下「家裁」といいます。)が後見人を選任し、選任された後見人が、未成年者の財産管理と身上監護を行います。
 これが、未成年後見の制度です(民法838条第1項)。
 なお、最後に親権を行っていた者が、遺言で未成年者の後見人を指定していた場合には、その指定が優先されますが、このような指定が行われていることは少なく、実務上は殆どが、親族等の請求により家裁が選任していると思われます。
 以下、具体的にどのような場合に、未成年後見開始の要件、すなわち上記①②の要件に該当すると判断され、未成年後見人が選任されるのかを見ていきます。

3 「親権を行う者がないとき」
(1)親権者が死亡した場合
 典型的な例は、親権者が死亡した場合です。父母が親権者である場合は、双方とも死亡した場合のみ、未成年後見開始の要件に該当します。
 親権者が失踪した場合や、正式な失踪宣告はされていなくとも、長期間生死不明や行方不明である場合も、同様と考えられています。

(2)親権停止や親権喪失の場合
 親権者が、家裁により、親権停止の審判を受けた場合(民法834条の2)親権喪失の審判を受けた場合(民法834条)、家裁の許可を受けて親権者を辞任した場合(民法837条第1項)も、「親権を行う者がないとき」に該当します。
 親権停止は、父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときに、子の親族等の請求によって、家裁が、2年以内の期間に限って、その父又は母が親権を行うことができないようにする制度で、平成23年の法改正により、新たに創設されました。
 親権喪失は、父又は母による親権者による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときに適用される制度であり、親権停止よりも更に深刻な事案を想定しています。

(3)親権の行使ができない場合
 過去の裁判例では、親権者の所在は明確であるものの、受刑者として服役中  である場合も、「親権を行う者がないとき」に該当すると判断されました(水戸家裁土浦支部昭35.7.19)。
 その他、外国に居住して事実上親権者としての義務が果たせない場合も該当すると考えられています。
 親権者の判断能力に問題がある場合はどうでしょうか。
 親権者の判断能力に問題があり、親権者自身に成年後見人が付されたような場合でも、法律上当然に「親権の行使ができないとき」にあたるわけではありません。
 しかし、実際には、そのように親権者の判断能力に問題があるとされた場合は、未成年後見開始の要件に該当するとされることが多いといえます。
 例えば、親権者について成年後見人が付されていなくとも、「父が精神病のため入院中であり母はその所在が不明」という事案について、家裁は、未成年後見が開始すると判断しました(広島家裁呉支部昭46.1.23)。

(4)父母が離婚している場合について
 難しいのは、父母が離婚していて、単独親権者が死亡してしまったという事案です。
 この場合、もう1人の親の親権が当然に復活するわけではありません。しかし、上記のような状況の発生を受けて、非親権者であった親が親権者になりたいと希望するのであれば、家裁に親権者変更の申立てをし、裁判所の許可を得て、親権者となることはできます。
とはいっても、申立てをすれば必ず許可をもらえるわけではありません。
 実務上定型的に発生する係争は、非親権者が、自らを親権者とするよう申し立てる一方で、亡くなった単独親権者の父母(未成年から見ると祖父母)等の親族も、未成年者を監護していくことを希望し、自らを未成年後見人とするように家庭裁判所に申し立てるという事案です。
 このように「親権者変更の申立て」と「未成年後見人選任の申立て」が競合した場合、どちらに決定されるかは一律には決まっておらず、未成年者の意思、養育環境等様々な要素を考慮し、未成年の福祉の観点から、裁判所が決定します。
 まず、親権者変更の申立が却下されたケースを紹介します。
 単独親権者であった父死亡後、子(小学4年生)について父方伯母から後見人選任の申立て、母から親権者変更が申し立てられた事案で、裁判所は、母は子の生後7か月から全く子と交渉がなかったこと、伯母は生後7か月から子を監護養育してきたことから、「伯母と子との間は真実の母子同様の情愛で結ばれており、伯母との別離により子の受ける精神的外傷は極めて大きい」として、母の申立てを却下しました(福岡家裁小倉支部昭55.5.6)。
 一方、上記裁判例と異なり、現に養育していた親族による未成年後見の申立が却下された事案もあります。
 これは、離婚の際、2人兄弟のうち、父が兄を、母が弟を引き取り、それぞれ引き取った子の親権者となり、母は、実家で実父母(子から見ると祖父母)と共に子の監護をしていたものの、亡くなってしまったという事案です。
 父からは親権者変更の申立て、現に子を養育中の母方祖父から未成年後見人選任の申立てがされたところ、山形家裁は、父への親権者変更を認め、母方祖父らはこれを不服とし、仙台高裁に即時抗告を申し立てました。
 結果、仙台高裁も、山形家裁同様、父の親権を認めました。ただ、この事案では、亡母方祖父母は、亡母の生存中から子の監護に深く関わり、亡母の病臥中は亡母に代わり監護にあたり、亡母の死後も連帯して子の監護にあたってきたという事情があり、仙台高裁もこうした事情に配慮し、決定文の中で、「現に養育に関係する抗告人(注、母方祖父母)の心情は察するに余りがあるが、子の将来を踏まえた幸福ないし福祉のためには、現在、親権者を父に変更するのが、むしろ、相当と認められるのであり(中略)、子の将来という大局的見地からも考慮し、実父でありかつ兄を養育している父に親権者を変更することの相当性に理解をすることを強く希望するものである。」と述べており、裁判所としても苦渋の判断であったことを伺わせます。
 この判断に至った大きな要因は、やはり、「兄が父のもとにいた。」と言うことではないかと思います。仙台高裁の決定文を見ても、祖父母らの養育環境や養育姿勢を非難する論調ではありませんし、裁判所は、「兄弟はできる限り分離すべきではない。」という考え方を原則としていますので、この事案でも、その原則を重視したのではないでしょうか。
 離婚の際の親権者を巡る係争もそうですが、「育てたい者の思い」と「子の福祉」の双方を考慮しつつ決定することの難しさを改めて感じさせる裁判例であると感じます。

4 「親権を行う者が管理権を有しないとき」
 3では、未成年後見が開始する要件のうち「親権を行う者がいないとき」について紹介しましたが、本項では、もう一つの要件「親権を行う者が管理権を有しないとき」について紹介します。
 「管理権を有しない」とは、父又は母が、家庭裁判所により管理権喪失の審判を受けた場合(民法835条)、または管理権を辞した場合(民法837条1項)です。
 親権者による財産管理が不適切だというだけでは、「管理権を有しないとき」には該当しません。
 「管理権を有しない」場合、親権者は、その地位を全面的に失うわけではなく、未成年者の財産管理権だけを失うので、財産管理についてのみ未成年後見が開始します。

5 未成年後見制度の今後
 近年、児童虐待は深刻な社会問題となっており、この課題に対応する観点から、平成23年に未成年後見制度等についての改正が行われ、複数の未成年後見人の選任や、法人の選任が可能となる一方で、児童福祉法の関わる場面での未成年後見人への支援も整備され、それ以前より、未成年後見制度を活用できる場面は広がったと言われています。
 例えば、親族未成年後見人にプラスして、弁護士等の専門職後見人をつけることが可能になったことから、親代わりの部分と、財産管理の部分の役割分担も可能になりました。
 また、親権者による虐待や育児放棄がある事案などでは、法人が後見人となって対応することが有効な対策となる場合もあります。

 未成年者を保護することは、社会にとって、常に重要な課題です。
 今後、未成年後見人を支援する事業の拡充等の更なる制度改革により、より一層未成年後見制度が有効に利用されることが望まれます。