弁護士の事件簿・コラム

改正民事執行法について

弁護士 野呂 芳子

1 これまでの問題
 「離婚調停できちんと養育費を取り決めたのに、元夫が支払ってくれない・・・。」「裁判で勝ったのに、結局お金を払ってもらえなかった・・。」こんな話をお聞きになったことはありませんか?
 私は、弁護士になる前にこういった話を聞いた時は、「裁判所で決められたのにお金をもらえないなんて、そんなことあるのかな?いったいどういうこと?」とさっぱり意味がわかりませんでした。
 弁護士になってみて、ようやくわかりました。裁判で負けて裁判所から支払を命じられても、調停で取り決めをしても、支払わない人というのは現実にいて、しかも、そう珍しいケースではないのです。
 このように、支払う義務がある人(「債務者」と言います。)が支払わない場合は、支払を受ける権利がある人(「債権者」と言います。)が、債務者の財産を探し出して、差押等をしないと、お金を手にすることができません。具体的には、債務者の預金や給与を差し押さえたり、債務者が不動産を持っていれば、競売を申し立てたりするのです。(こうした手続きを「強制執行」と言います。)
 しかし、そもそも「債務者がどこに預金しているのかも知らないし、どこに勤めているかもわからない。」ということも多いですし、悪質な債務者ですと、債権者にわからないように、財産を隠してしまうことすらあります。
 そうなると、強制執行もできなかったり、してもうまくいかなかったりで、債権者は結局泣き寝入りに終わる、ということも多々あり、「日本の判決は『絵に描いた餅』判決」などと揶揄されていました。

2 財産開示手続の創設
 こうした批判を背景に、2003年(平成15年)、「財産開示手続」という手続が創設されました。これは、簡単にいうと、債務者を裁判所に呼び出して、財産を明らかにするよう求める、という制度です。
 しかし、債務者がこの手続に違反した場合の罰則が軽かったことなどから、この手続については有効性を疑問視する意見も多く、実際、さほど使われてきていませんでした。
 私自身の経験で言いますと、2006年(平成18)年に一度、この手続を利用し、判決で支払を命じられたのに支払わない債務者を呼び出してもらったことがあります。
 裁判所で開かれた期日の際、私は粘り強く質問を重ねましたが、債務者は支払わない言い訳を延々としたのみで、財産は「ない。」と言い張りました。裁判官は熱意が無かったのかあまり追及もしてくださらず、結局、この手続は金銭の回収に繋がりませんでした。
 このような経験により、私自身も、財産開示手続の有効性に疑問を持ちましたので、以後、利用したことはありません。

3 今春の改正
 このような「債権者の泣き寝入り、債務者の逃げ得」という、法的に正当とは言い難い状況を改善し、債権者がきちんと債務者から金銭を回収できるように、2019年(令和元年)に民事執行法が改正され、2020年(令和2年)4月1日から施行されました。改正のポイントをいくつかご紹介します。

4 財産開示手続の改正
(1) 開示拒否や虚偽の陳述をした場合の罰則の強化
 債務者が、正当な理由無く、呼び出しを受けた期日に出頭しなかったり、陳述を拒んだり、虚偽の陳述をした場合の罰則が改正されました。改正前の罰則は、「30万円の過料」という行政罰で、刑罰ではありませんでしたが、改正後は、「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑罰が課されるようになりました。

(2)申立に必要な書類の範囲の拡大
 改正前は、財産開示手続を申し立てることができるのは、裁判所で作成した判決や、調停調書、和解調書等を持っている人に限られており、公証役場で作成した公正証書を持っているだけでは申立できませんでしたが、改正後は、公正証書でも、申立ができるようになりました。

5 「第三者からの情報取得手続」の創設
 債権者が、4(2)に書いたような書類を持っている場合、債務者の預金、勤務先等の情報を取得することができるようになりました。
 なお、「取得したい情報が何か」によって、手続は少し異なりますので、その点をご説明します。

(1) 債務者の預金等を知りたい場合
 この場合は、裁判所に申立をし、裁判所から、銀行の本店に対し、情報を提供するように命令してもらい、銀行本店から、債務者に関しての情報(取引があるかどうか、取引がある場合は支店名、預金の種類、口座番号、調査時点での残高)を回答してもらえるようになりました。
 この回答を見て、ある程度残高がある預金を見つけることができた場合は、債権者は、次に、その預金を差し押さえるという「強制執行」をすればよいわけです。
 また、債務者が上場株式や国債を保有していれば、その銘柄や数等の情報も回答してもらえるようになりました。

(2) 債務者の勤務先を知りたい場合
 この場合は、(2)の預金を知りたい場合より少し手間がかかります。いきなり裁判所に情報取得の申立をするのではなく、まず第一段階として、先程ご紹介した「財産開示手続」の申立をしなければならず、その手続を利用してから3年以内に、裁判所に対し、改めて、情報取得の申立をする必要があるのです。
 他にも注意すべき点があります。預金、株式、不動産などの情報を知りたい場合は、債権の種類(例、養育費支払請求権か、工事代金請求権かなど)に制限はないのですが、勤務先の情報については、債権の種類に限定があるということです。具体的には、養育費や婚姻費用の支払請求権、または、生命・身体を侵害されたことによる損害賠償請求権を持っている債権者に限られているのです。
 裁判所は、このような手続・条件に則った申立を受けると、①市区町村や②日本年金機構など厚生年金を扱う団体に、債務者の勤務先についての情報を提供するように命令し、回答してもらいます。
 この回答により、債務者の勤務先がわかれば、債権者は、次に、給与差し押さえという「強制執行」をすることもできるのです。

(3) 不動産の情報を知りたい場合
 債務者の所有不動産についても、勤務先同様、財産開示手続を先に申し立てることにより、不動産の所在地や家屋番号の情報を取得できるようになりましたが、実は、この不動産情報の取得手続については、2020年(令和2年)4月1日の時点では施行されていません。但し、改正法の公布日(2019年(令和元年)5月17日)から2年以内に施行される予定ですので、1年以内には施行されるでしょう。

6 最後に
 今回の法改正により、債権者から見ると、これまでよりも債務者の財産の調査がしやすくなり、実際にお金を回収することができるケースが増えると思われます。
 一方、これまで支払を滞らせていた債務者も、「財産開示手続を申し立てられたら、その後勤務先がわかってしまい、給与を差し押さえられる可能性がある。」ということを知れば、諦めて、自主的に支払うようになることが期待できると思われます。給与を差し押さえられれば、債務の存在と未払い事実が勤務先にもわかってしまいますので、社会人としてのダメージが大きく、避けたいと思う人も多いはずだからです。
 また、「財産開示手続きに行かなかったり、隠したりすると刑事罰を受ける可能性がある。」ということも、自主的な支払いを促す効果があるでしょう。
 実は、私も今月、早速、改正法を利用した手続の利用に着手しています。
 冒頭に書きましたように、これまで、「養育費の取り決めをきちんとしたのに支払われない。」「裁判で勝ったのに支払われない。」と悩んだり、回収を諦めたりされていた方も、この改正を機に、回収ができる可能性がありますので、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

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