不在者財産管理人の仕事について

弁護士 野呂 芳子

2015年4月24日

1 はじめに
 以前、コラムで、「相続財産管理人」という仕事について書きましたが、今回は、私が、今も数件担当している「不在者財産管理人」の仕事についてご紹介させていただきます。

2 不在者財産管理人とは?
 一般には、「蒸発」「失踪」という表現がわかりやすいでしょうか。 文字どおり「いなくなってしまった方」の財産を管理する仕事です。
 普通に生活していた方が、ある日突然、いなくなってしまう……小説かドラマのように思われるかもしれませんが、現実にあります。それも、私たちのような仕事をしていますと、「とても珍しい。」ともいえないのです。
 事故でも、事件に巻き込まれたのでもなく、おそらくは間違いなくご自分の意思でいなくなられたのであろうというケースを、私は、過去18年の弁護士生活で、10件前後は経験したと思います。
 たまたまかもしれませんが、私が関わったのは、皆、壮年の男性のケースであり、女性のケースはありませんでした。皆様が、程度や内容は違うにせよ、借金の悩みか家族の悩み、あるいはその双方を抱えておられました。

3 なぜ、不在者財産管理人が必要なのか?
 このように、いなくなってしまわれた方がいて、所在がわからないままなのに、その方も交えて遺産分割協議をしなければならないとか、その方所有の不動産を処分しなければならないとか、何らかの必要がある場合に、利害関係のある人(たとえば共同相続人)や検察官が裁判所に申し立てると、不在者財産管理人が選ばれます。
 まず「不在者」と認めてもらうには、住民票所在地に住んでいないこと、それ以外に手がかりもないこと等を、写真や報告書で明確にする必要があります。
 そのうえで、財産管理の必要も認められれば、不在者財産管理人が選任されます。
 この管理人が、不在者本人に代わって遺産分割協議に参加したり、財産の管理や処分を行ったりしますので、それまでの間、にっちもさっちもいかず止まっていた様々な法的な手続を進めることができ、利害関係人にとっては大変有益な制度であるといえます。
 一方で、こうした制度が一般に普及しているとも思えませんので、知らないがために、放置されたままになっている遺産分割なども結構あるのではないかという心配も浮かんできます。

4 不在者財産管理の終わりについて
 不在者財産管理人の仕事が終わる場合というのは、次にご紹介するとおり、いくつかあります。

(1)本人の所在が判明した場合
 ご自分の意思でいなくなられた場合、探すのはかなり難しいことが通常です。住民票はまず動かしません。銀行は、利用を続ける方も多く、利用履歴から、どのあたりにいらっしゃるか見当をつけることはできますが、それ以上の特定まではなかなかできません。
 ただ、私が管理人を務めた中で、過去1件だけ、所在が判明したケースがありました。
 私が管理人になって以降、銀行の取引履歴を定期的に取り寄せ確認していましたところ、年金が出る度に引き出されていましたので、おそらくはご健在なのであろうと期待していましたが、住民票は動かないままであったので、所在判明は無理かとあきらめかけていました。
 しかし、定期的に住民票をとり続けていたところ、ある日、住民票に動きがあったのです。
 早速、移転先の住所地にでかけていきました。割合、事務所の近くでした。失礼ながら、「本当にここに人が住んでいるのか。」と足を踏み入れるのに恐怖感を覚えるような、朽ち果てる寸前といった風情の建物でしたが、無事、そこでご本人にお会いすることができました。
 ご本人の了解を得て、ずっと心配し続けていた妹さんにも連絡し、再会していただくことができました。また、この間、ご本人が悩まれていた債務の問題も、不動産の処分で全て解決済みであること、身を隠す必要などなく、心配せずに以後の生活をおくっていただけることを説明したところ、安心されたご様子でした。
 その後は、妹さんらの尽力で、生活保護を受給し、穏やかな生活をおくられるようになったとお聞きしています。
 今も、お元気でおられればいいと、時々思い出す事件です。

(2)本人の死亡が判明した場合(失踪宣告を含む)
 私が関与した中では、幸いなことに、ご本人の死亡が判明したケースはありません。
 ただ、「失踪宣告」といって、7年間、生死不明の状態が続いたときに、利害関係人(家族等)の請求により、亡くなったものと扱う制度がありますが、この制度により、死亡扱いになったケースはあります。
 そうすると、あとは、相続の問題となり、不在者財産管理人の関与できる業務を超えますので、ここで仕事は終わりになります。

(3)管理すべき財産がなくなった場合
 私が管理人を務めた中で、ある土地が、9名の共有になっているのにかかわらず、うち8名が不在者というケースがありました。
 それもそのはず、この8名は、皆、江戸時代のお生まれと思われるのです。この方たちが檀家であったお寺の過去帳には、8名の皆様全員について明治時代に亡くなられたとの記載があったのですが、当時のことで、戸籍もはっきりせず、相続人が誰かもわからず、そもそも過去帳以外にこの方たちの住所や生年月日、死亡年月日を特定する資料もなく、それでもなぜか、登記簿謄本には、はっきりと、「○○衛門」「○○兵衛」といったようなお名前の8名が、共有者として登記されていたという事案でした。
 残り1名の共有者の方が、困ってしまわれ、不在者財産管理人選任を申し立てられ、私が選ばれましたが、最終的には、この8名の持分を、ご健在である1名の方に譲渡して、解決することができました。
 これにより、「管理すべき財産がなくなった。」ということで、業務を終了しました。
 「悩んだ末に姿を消してしまった。」という事案とは異なり、珍しい事案であったと思いますが、お寺の過去帳を見せていただいたり、貴重な経験ができました。

5 不在者財産管理の仕事について
 前回、相続財産管理人の仕事については、「今後増えていくことが予想される。」と書きましたが、不在者財産管理については、増えていくかどうかの予想はともかく、できれば増えてほしくない分野かもしれません。
 なぜなら、前記の江戸時代の方たちのケースはともかく、いわゆる「蒸発」や「失踪」が契機となる場合は、いなくなられたご本人たちも、残されたご家族もとてもお気の毒なことが多いからです。
 先ほど、私が関与したのは男性の方ばかりであったと書きましたが、男性の方は、社会的な立場や「恥」の概念等色々な心情から、意外に、自分の悩みを人にいえずに抱えてしまわれることが多いのかもしれません。いなくなられるまでには、相当に思い詰められたのであろうと思いますが、債務にしても、家族問題にしても、1人で悩まれず、ご家族でも、友人でも、弁護士でもいいので、悩みを共有してもらえば海路が開けたのでは、と残念に思うケースが多々ありました。
 残されたご家族の心労も並大抵ではありません。何年も前に突然姿を消した息子さんのことを今でも待っておられるご高齢のご両親もおられます。その心中を思うと、慰める言葉もありません。
 福祉でも、法律でも、悩んだ方が「不在」にならなくて済むような、歯止めとなるような窓口が多くあればとも感じています。
 今も、担当案件は複数あり、裁判所から信頼されて選任されている以上、ご本人のためにも、利害関係人の方のためにも、適正迅速に解決するよう精一杯務めていますが、一方で、ご本人の所在の判明と、これ以上「不在者」が増えないことも常に願いつつ、業務にあたっています。

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