弁護士の事件簿・コラム

破産するにもお金が必要?

弁護士 堀川 なつき

1.以前法律相談で、「借入金の返済が大変なので自己破産をしたいのですが、破産するにもまとまったお金が必要だと聞きました。手続きを弁護士に依頼する費用の他に、何にお金がかかるのでしょうか?」という質問をされたことがありました。
 自己破産は、借入れ等の返済が困難となった方が、その法的返済義務を無くすことで経済的な立ち直りを図るための制度ですので、お金がなければ自己破産ができないというのでは本末転倒になってしまいます。
 もっとも、自己破産の申立てをする際、場合によっては、弁護士費用の他にも最低で20万円程度の費用が必要になる場合があり、おそらくその費用についての漠然とした噂話が、相談者の方の耳に入ったのだろうと思いました。
 このような費用は、全ての自己破産事件で必要となるわけではなく、事件が裁判所で「管財事件」と処理された場合に必要になるものですので、以下、管財事件について簡単にご説明したいと思います。

2.自己破産は、裁判所に申立書などの必要書類を提出(申立て)して行う手続きです。
 裁判所は、申立てがなされると、その内容を審査し、「債務者が支払い不能の状態である」(破産の申立てをした方が、客観的に見て、継続的に債務の返済をできない状態である)と判断すると、破産手続き開始決定を出します。
 その際、裁判所は、事件を同時廃止事件と管財事件に振り分けます。
 破産の申立てをした方(破産手続開始決定が出た後は、「破産者」と呼ばれますので、以下「破産者」と表記します。)に、法律上破産手続をしても保持し続けて良いと規定されている財産(「自由財産」と言い、当面の生活に必要と考えられる現金などです。)以外の財産がある場合や、破産に至る経緯に免責不許可事由(破産をしても、借入れ等の法的返済義務をなくすことができない事情として、法律で定められている事由)がないかを調査する必要があると裁判所が判断した場合などには、管財事件とされ、それ以外の事件は、同時廃止事件として処理されます。

3.管財事件となった場合には、裁判所が破産管財人を選任して、財産や免責不許可事由の調査や、財産の換価配当などの業務を行わせます。
 破産者が、自由財産以外の財産(預貯金や、退職金、保険など)を有している場合、管財人は、その財産を引き続き破産者に保持させる必要があるか(生活の立て直しに必要か)どうかを検討します。
 管財人が、財産を引き続き破産者に保持させる必要性がないと判断した場合、破産者は、当該財産を管財人に引き渡さなければなりません。そして、管財人は財産を換価し、債権者の債権額に応じて、配当します。
 他方で、破産者が自由財産以外に財産を有しない場合や、財産はあるが管財人が当該財産を破産者に保持させる必要性があると判断した場合でも、管財人が業務を行う報酬に充てる分として、最低で20万円を管財人に引き渡す必要があります。
 この費用は、引継予納金と呼ばれるもので、これが冒頭で記載した管財事件となった場合に必要となる費用です。
 引継予納金は、法テラスなどの弁護士費用の立て替え制度を利用している場合でも、基本的にはご本人にご用意いただく必要があります。金額も少なくなく、かつ管財人に納める際には一括でなければならず申立てまでに全額用意する必要があることから、ご負担として小さいとは言えず、申立てを検討する際のネックとなり得るかと思います。

4.以上のとおり、破産申立ての際には、債権者への配当に充てる財産がないというケースであっても、管財事件になる場合は、最低で20万円程度の費用(引継予納金)が必要になりますが、弁護士に依頼して、借入れの返済を止めたあとに、これまで返済にあてていた資金から引継予納金を貯めることも可能です。
 また、借入れ等の返済が困難となった場合には、何らかの対策をとり、生活を立て直すことが不可欠です。
 借入等の返済でお困りの場合は、お一人で悩まれることなく、まずは弁護士にご相談下さい

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