自筆証書遺言の方式緩和~まもなく法施行~

弁護士 栗山 博史

2018年12月17日

1 今回のテーマ
 前回の野呂弁護士のコラムでは、民法(相続法)改正のうち、配偶者居住権が取り上げられましたが、今回は、同じく相続法改正の中から、まもなく改正法が施行される「自筆証書遺言の方式の緩和」について取り上げたいと思います。

2 法定相続と遺言による相続
 民法が遺言という制度を認めていることは広く知られています。
 財産をお持ちの方が亡くなった場合、その方が遺言をしていなければ、民法が定めた法定相続分にしたがって財産を分けることになりますが、遺言をしていれば、相続人はその遺言にしたがって財産を分けることになります。たとえば、Aさんには妻であるBさんとの間に子どもがおらず、Aさんの弟であるCさんが生存していた場合、Aさんが亡くなると、BさんとCさんは法定相続分にしたがい、3:1で財産を分けることになりますが、もし、AさんがBさんにすべての遺産を相続させるという遺言をしていた場合には、Cさんが取得する財産はなく、全ての遺産をBさんが取得することになるのです。
 このように、財産をお持ちの方が遺言をすることによって、自分の意思を財産の分配に反映させることができ、相続人間の遺産争いのトラブルを防止することにも貢献します。

3 自筆証書遺言の方式~現行法
 遺言のやり方については、遺言者が自分自身で作成する自筆証書遺言、公証人が証人2名の立ち合いのもとに本人の意思を確認して作成する公正証書遺言の2つがよく行われますが、今回の法改正は、自筆証書遺言に関するものです。
 自筆証書遺言は、遺言者が単独で作成することができ、費用もかからないので、何度も作り直せる最も簡単な方式ですが、以下の方式だけはクリアしていなければいけません(民法968条1項)。

① 遺言者が全文を自分で書くこと
② 遺言者が日付と氏名を自分で書くこと
③ 捺印があること

 遺言が有効になるために必要な方式はこれだけですので、たとえば、先の例のように、遺言者が自分の財産をすべて妻に相続させたい場合には、「遺言者は私の一切の財産を妻Bに相続させる。」と書いて、日付と名前を書き、捺印をすれば、立派な遺言書として成立します。どんな紙でも良いですし、捺印は実印でなくても認印でかまいません。この程度の分量の遺言書であれば、①②③の方式を満たすのは簡単です。
 しかし、遺言者がとてもたくさんの財産を持っていて(たとえば、預貯金や証券口座を多数、土地も何筆も所有しているという場合があります。)、しかも、それを1人の人に相続させるのではなく、複数の人に分けて相続させたいという場合、預貯金や不動産の特定は細かく書かなければなりませんので、全文を自筆で書くというのは大変です。パソコンのワープロソフトなどを使って簡単に文章を作成できる時代なのに、遺言書だけは全文自筆で書かなければならないというのは、あまりに面倒で、遺言書を作成する気をなくしてしまうという場合もあるでしょう。また、一度遺言書を作成した後で、改めて作り直すのも大変です。

4 自筆証書遺言方式緩和の法改正の内容
 そこで、自筆証書遺言の条件のうち、全文自筆で書かなければならないという①の方式を少し緩めて、財産の目録については自分で書かなくてもよい、としたのが今回の改正です。もう少し具体的に申し上げますと、預貯金、証券、不動産等の財産の目録をワープロソフトで作ったり、あるいは、預貯金通帳のコピーや不動産の登記事項証明書のコピーなどを用意したうえで、「別紙目録記載1の遺産をDに相続させる、別紙目録記載2の遺産をEに相続させる」という本文の部分だけを自分で書けば、全体を有効な遺言書として扱います、というふうに法改正したのです。ただし、財産目録を別紙にする場合は、本文の署名、捺印だけでなく、目録ごとにそれぞれ署名、捺印が必要だというふうになりました(新968条2項)。

5 利用しやすさと偽造・改ざんの危険
 自筆証書遺言というのは、公証人が証人の面前で作成した公正証書遺言とは違って、もともと、遺言の効力が争われることがよくあります。遺言を作成したときには認知症だったと主張されたり、遺言者名の複数の遺言書が出てきて、先後関係が争われたり(遺言の内容が抵触する場合には後の遺言で前の遺言が撤回されたものとみなされます。)、そもそも筆跡が違うなどと争われることもあります。
 今回の改正によって、自筆証書遺言は確かに作成しやすくなりましたが、もともと自筆証書遺言は遺言書の効力が争われることが多いことから、法改正に伴って、紛争が起こる可能性はどうだろうか、ということを考えてみましょう。
 遺言書の本文と目録が全体として有効となるのは、目録が自筆で書かれた本文と「一体のもの」であれば良いとされています。一般的に、複数ページにわたる文書を作成する場合、後から別の紙を差し入れたり、抜き取ったりすることを防ぐために、ページの継ぎ目に契印を押すことがよく行われますが、改正後の遺言書では、そこまで必要はありませんし、ホッチキス止めすら求められていません。一つの封筒に入っていたりすれば、それだけで「一体のもの」と扱うことができるのです。偽造、改ざんを防止するために、目録ごとに署名、捺印が必要とはされましたが、その捺印が本文の捺印と同じものであることまでは求められておりません。ですので、後に遺言書を発見した誰かが、目録部分をそっくり抜き取って、別の目録に差し替え、筆跡をまねて名前を書いてしまうなどという不正行為は、改正前よりはるかに容易になってしまうのではないか、という問題点も指摘できるかと思います。
 このように、自筆証書遺言の様式が緩和されて、利用しやすくなったとはいえ、偽造、改ざんの危険性はありますし、誤解されるようなやり方で作成してしまうと後々のトラブルを招くことになります。そういうことを回避したいと思われる方は、公正証書遺言や、最後に述べる遺言書保管制度(2020年7月施行予定)を利用されることをお勧めします。

6 遺言書保管制度
 最後に、遺言書保管制度について触れておきます。
 自筆証書遺言の方式緩和が施行されるのは2019年1月13日と、まもなくですが、2020年7月10日からは遺言書保管制度が始まります。
 公正証書遺言は公証役場で保管してくれますが、自筆証書遺言を役場で保管してくれるという制度はこれまでありませんでした。遺言者が遺言を書いたときに、親族などの知り合いや第三者に託すか、自宅のどこかに隠しておくか、金融機関の貸金庫に入れておく、といった方法をとることが一般でした。しかし、そうすると、さきほど申し上げたとおり、偽造、改ざんのトラブルや、そうでなくてもそういう不正行為が疑われてトラブルになるということが起こり得ます。
 遺言書保管制度は、遺言者自身が、法務局に自ら出向いて、自身の身分を証明して遺言書を保管してもらう制度です(手数料は今後定められます)。もし、遺言者が、この制度を利用して遺言書を作成し、もし遺言書を撤回したり変更したりする場合にも所定の手続きを経て行うことを徹底すれば、少なくとも、目録を含めた一体の遺言を遺言者自身の意思によって作成されたということは争いにくくなると思いますので、紛争防止には貢献するのではないかと思われます。

7 さいごに
 遺言は、ご自身が亡くなった後のご親族のトラブルをなるべく防止したいというお気持ちに基づいて作成されることが多いです。せっかく遺言書を作るのですから、しっかりとした内容のものを作っていただきたいと思います。
 自筆がよいのか、公正証書が良いのか、どういう内容の遺言にすれば死後の相続人どうしのトラブルを防げるのかなど、十分に検討していただくために、ぜひ、お気軽にご相談いただければと思います。


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