弁護士の事件簿・コラム

闇バイトにご用心!

弁護士 堀川 なつき

 何度か,特殊詐欺の受け子をしてしまった方の刑事事件の弁護人を担当したことがあります。
 その方たちは,一様に「こんなに厳しい刑罰が科されるとは知らなかった,知っていたらこんなことに関与しなかったのに・・・」と言っており,事前に,受け子に科される厳しい刑罰の状況を知ってもらえれば,受け子をする人はいなくなるだろうに・・・ともどかしく感じていました。

 昨年末,とあるネットニュースで,「特殊詐欺では,組織末端でも5割超が実刑になる」という記事を目にしました。令和3年度の犯罪白書をもとにした記事でした。
 私は,特殊詐欺の受け子をしてしまうと,よほどの事情が無い限り実刑になるという印象でいたため,5割程度というのはどのような統計だろう?と思い,今回コラムのテーマとするとともに,犯罪白書を読んでみることにしました。

 2021年版犯罪白書を確認したところ,統計の調査対象となったのは,東京・横浜・さいたま・千葉の各地方裁判所において,一定の期間内に,詐欺(既遂・未遂を問わず,また準詐欺等※以下,本コラムでは省略)により有罪判決の言渡しを受け,調査時点で有罪判決が確定していた者とのことでした。
 つまり,統計には,詐欺の未遂事件(被害者をだます行為はあったものの,被害者の元から財物が無くなっていないケースなど)に関与した人の刑のデータも含まれているのです。

 今回のテーマは,特殊詐欺の受け子にいかに厳しい刑罰が科されるかですので,まずは刑事事件の量刑(被告人に科す刑を,どれくらい重い刑にするかどうか)を決める事情をご説明すると,量刑を決める事情には,犯情(犯行の態様や,被害の程度など,犯罪行為自体にかかわる事情)と一般情状(犯人の反省の程度や,前科など,犯情以外の事情)があります。
 このうち,窃盗罪,詐欺罪などの他人の財産を侵害する犯罪である財産犯では,被害者に現に金銭的な被害が発生したか否か,その金額がいくらか,という点が大きく量刑に影響します。
 そして,当然,被害者に金銭的な被害が発生したケース(既遂)の方が,被害が発生していないケース(未遂)よりも刑が重くなります。
 上記統計は詐欺の未遂事件の量刑データも含んでいることを踏まえると,被害者に金銭的な損害が発生してしまった詐欺の既遂事件の場合は,上記統計で出ていた実刑割合55パーセントよりも高い確率で実刑になると考えるべきあろうと思います。
 そして,特殊詐欺に関与する時点では,被害者から財産をだまし取ろう(詐欺の既遂にしよう)という意図で関与するのですから,事前の想定としては,受け子として事件に関与すると,55パーセントよりも高い確率で実刑になると考えるべきです。

 私が過去に弁護人を担当した方の多くは,経済的な困窮から,「闇バイト」と検索して,犯罪行為に加担してしまっていました。  バイトという単語や,自宅にいながら簡単に検索できてしまうという手軽さから,容易にアクセスしてしまうのかと思いますが,その手軽さの一方,特殊詐欺に加担すれば,前科がなくても,被害金額や被害弁償の有無等の事情によっては,かなり高い確率で実刑になるおそれがあります。
 加えて,先ほどの2021年版犯罪白書の統計によれば,受け子をすることによって報酬を得られる場合でも,その金額はおおよそ数万円のようです。報酬受け取りの約束はしたが,実際は無報酬であったというケースもありました。
 数万円の報酬のために,数年間刑務所に行くというのはどうでしょうか。
 刑務所で過ごすのがつらい,というだけでなく,刑務所に入っている数年間を社会で働いたとすると,当然受け子の報酬の何倍もの報酬を得られることになります。
 弁護士としては,犯罪行為への関与はモラル的に控えるべきと考えますが,仮にそのような考えに至れない状況にあったとしても,犯罪行為に関与することでのご自身の損得を計算すれば,絶対に関与しないほうが良い,という判断になるだろうと思います。

 若者が犯罪組織に利用されて刑務所に行く姿を見るのは,あまりにも忍びないものです。また,特殊詐欺の被害者が受ける被害は,金銭的な損害だけではなく,家族以外の人間を信用できなくなるなど,これまでの日常生活を送れなくなるほどの甚大な被害であると伺っています。
 このような犯罪の被害者を出さないためには勿論,自分や家族の人生を守るためにも,「闇バイト」に限らず,「楽して儲かる」等のウマい話にはご注意下さい!

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