オレオレ詐欺事件について

弁護士 中里 勇輝

2020年1月10日

1 はじめに
 弁護士の中里と申します。初めてコラムを書きます。
 私は,去年の3月まで検察官として執務しておりました。今回は,社会的な影響も大きいオレオレ詐欺について,検察官として執務していた当時に感じていたことを踏まえて書いていきます。

2 オレオレ詐欺事件を巡る実情
⑴ オレオレ詐欺事件の手口について
 「オレオレ詐欺」の字面のとおり,いきなり電話口で「オレだけど」などと言って,被害者をだまそうとする手口は減っていると思います。ただ,このコラムでは,分かりやすさのため,電話を使って被害者をだます詐欺を,まとめて「オレオレ詐欺」と書きます。
 私の経験の中で特に多かったのは,金融機関の関係者や警察官,市役所の職員などのふりをして被害者の家に電話を掛け,被害者をだまし,現金を受け取ったり,キャッシュカード受け取ってATMから現金を引き出したりするという手口でした(被害者に電話を掛ける役割を「掛け子」,被害者からキャッシュカードや現金を受け取る役割を「受け子」,受け取ったキャッシュカードを使ってATMから現金を引き出す役割を「出し子」,受け子や出し子に指示をする役割を「指示役」と呼ぶことが多いです)。そのほかにも,受け子がキャッシュカードを預かった後,事前に準備していた偽物のキャッシュカードとすり替えて偽物のキャッシュカードを被害者に返し,本物のキャッシュカードを持ち去る(被害者は,キャッシュカードを持ち去られたことに気づかないため,被害発覚が遅れることが多い)という手口も増えておりました(ちなみに,キャッシュカードを偽物とすり替える犯行は,詐欺ではなく窃盗とされることが一般的です)。
 ただ,こういった手口も,私が検察官として仕事をしていた当時,多かったに過ぎません。オレオレ詐欺の手口は日々巧妙化しています。元号が平成から令和に変わる際にも,元号の変更を利用した詐欺に注意するよう報道されていましたし,控える新紙幣の発行の際も詐欺の発生が懸念されます。

⑵ オレオレ詐欺事件の多さ
 皆様に知ってほしかったのは,「とにかくオレオレ詐欺の事件は多い!!」ということです。
 私はたくさんのオレオレ詐欺の事件を担当しました。常にオレオレ詐欺の事件を抱えていたと表現しても過言ではないと思います。
 しかし,私が「たくさんのオレオレ詐欺の事件」と表現したものよりも,警察が把握しているオレオレ詐欺事件の数は多くなります。なぜなら,警察が検察庁に送致する事件は被疑者が特定された事件に限られており,被疑者が特定できていない事件が含まれていないからです。
 さらに言えば,被害者がだまされたことに気づかなかったり,警察への通報をためらったりしたため,警察ですら把握できない事件もあるでしょう。
 数え切れないほどオレオレ詐欺の事件が発生し続けていることは,想像に難くありません。

3 根絶の難しさ
 オレオレ詐欺は,社会問題化してから相当の年月が経過していますが,未だに根絶されていません。
 オレオレ詐欺事件で犯人が捕まったとしても,いわゆる「受け子」や「出し子」であることが多く,掛け子や指示役が逮捕されるケースが少ないのが実情です(掛け子や指示役と比べて,受け子や出し子は,被害者や被害品と直接接触することが多いため,逮捕されることが多いのです)。そして,オレオレ詐欺を実行する組織は,受け子や出し子が捕まっても,新しい受け子や出し子をすぐに見つけ出します(受け子や出し子を探すための「リクルーター」と呼ばれる役割があるほどです)。
 詐欺組織からすれば,受け子や出し子は,いわばトカゲの尻尾のような存在です。トカゲの尻尾をいくら逮捕・処罰しても,組織の壊滅にはつながらず,いつまでもオレオレ詐欺が減らないのだと思います。

4 このコラムでの警鐘
 長々書いてきましたが,私がこのコラムを書いた目的は2つあります。
 1つ目は,オレオレ詐欺が大量発生している身近な事件であること,つまり自分自身や家族が,いつ被害者になってもおかしくないことを知ってもらうことです。
 たくさんのだまされ方を見てきましたが,オレオレ詐欺の手口は非常に巧妙です。「まさか自分がだまされるとは思わなかった。」とお話しされる被害者が多くいました。このコラムを読んで「自分は大丈夫。」,「自分の家族は大丈夫。」と安心されている方もいると思いますが,そのような自信に疑問をもつことが,オレオレ詐欺対策の第一歩です。
  その上で,そもそも固定電話の必要性の吟味,電話に通話録音を知らせる機能をつける,家族ができるだけ顔を合わせるようにするなど,具体的な対策を検討することが有益だと思います。
 オレオレ詐欺の被害は極めて高額であり,一度お金が取られてしまえば,犯人が捕まっても戻ってくることは期待できません。だからこそ,警戒を強める必要があります。
 2つ目は,受け子や出し子を生み出さないことです。詐欺組織側の人間は,簡単に金がもらえるなどと甘い言葉で声を掛けてきます。そのような言葉を安易に受け入れ,受け子や出し子となる人も多く,簡単に手を染めやすい犯罪なのです。
 実際には,言葉どおりに分け前が払われないことが多いようですし,身分証明書を提出させて,受け子や出し子をやめようとすると,本人や家族に危害を加えると脅されることもあるようです。
 逮捕されるリスクが高い罪を犯し,分け前がもらえるかもはっきりせず,断ろうとすれば脅されるおそれもあるという受け子・出し子の現状の理解が広がることが望ましいです。
 小遣い稼ぎの感覚で受け子や出し子を始める若年の方が多いのが現実です。オレオレ詐欺の被害者にならないための予防の視点だけではなく,「子どもがオレオレ詐欺に関わったりしていないだろうか」,「子どもの周囲にオレオレ詐欺の勧誘をしてくる人がいないだろうか」という,犯人側にならないための予防の視点も持ってほしいと思います。
 「オレオレ詐欺は犯罪だから関わってはいけない」という注意は当然のことです。しかし,「犯罪だからだめ」が通じない場合があることは否定できません。そのような場合には,オレオレ詐欺に手を染める動機・メリットがない,つまり「捕まるリスクが高いだけで,分け前がもらえるとは限らないし,脅されることもある」という伝え方も検討されるべきです。