弁護士の事件簿・コラム

「終活」について

弁護士 井上  泰


 「終活」という言葉がいわれるようになってから、だいぶ経ちました。
 人生の終わりを考える活動の略語ですが、自分の人生の最後を迎えるにあたって、それを振り返り、遺される家族のことを考え、その限りある時間をどのように過ごしていくかを整理することなどといわれています。
 終活の方法は、なにか決まった形式のあるものではありませんが、よく推奨されているのは「エンディングノート」を作って事柄を整理していくことです。
 その整理する内容は、
●これまでの人生を振り返ってその思いをつづること
●これからの人生における課題の優先順位や目標を立てること
●もし認知機能が低下した場合に備えて、その後の生活の希望を伝えること
●延命措置の希望の有無
●自分のプロフィールや自分だけにしかわからないことを整理してその伝達方法を考えること
●所有資産の相続における分割方法の考え方、葬儀の方法を綴ること
 などが挙げられています。

 その目的としては、自分の死後に遺された家族の負担を軽減し、また、これまでの人生を振り返り今後どう生きていくかを見つめることで、最後まで充実した生活を送ることができるともいわれています。


 我々弁護士も遺言の作成や認知機能の低下に対する方策などで、その「終活」のお手伝いをする機会があります。
 そこで今回は遺言の作成を中心に少しお話ししていこうと思います。
 終活として検討する遺言の方式には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」という3つの方法があります。

⑴ 自筆証書遺言
 遺言者が自ら自筆で作成し、作成日付と氏名を自署して押印するものですが、改正相続法で財産目録自体はパソコンなどで作成された物でも良いことになりました(ただし、遺産目録には名前の自署と押印が必要です)。
 遺言するにあたって公正証書などを利用する場合と比べてコストがかからない点などが利点ですが、その様式や内容について間違うと、無効になるリスクがあります。また、遺言書を家のどこかに保管して自分が亡くなってしまうとその遺言の紛失のリスクもありますが、自筆遺言書の保管について2020年7月10日から法務局指定の遺言書保管所に申請する制度が導入されることになっています。
 これらについては相続法の改正の視点から、当事務所のホームページの2018年12月の栗山弁護士のコラムでも詳しく紹介しているのでご参照頂ければ幸いです。

⑵ 公正証書遺言
 公証役場で、証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者が公証人に対して遺言の内容を口頭で伝え、公証人がこれを筆記し、遺言者及び公証人に読み聞かせ、あるいは閲覧させて、その上で遺言者と公証人が署名押印して作成されるものです。公証人に事前に相談し、その内容を公証人と検討して作成されるために、遺言として無効となるリスクが低く、また、公証役場に原本が保管されるので遺言書の所在についても明らかとなることから、手堅い作成方法といえるでしょう。
 ただ、公正証書作成手数料としてのコストがかかります。

⑶ 秘密証書遺言
 遺言者が遺言を作成し、その遺言書に署名押印をします。ただ、自筆遺言のように本文を自筆することまでは要求されずパソコンやワープロで全文を作成したものでも構いません。
 そして、その遺言を封筒に入れて、遺言に使った同じ印鑑で封印をします。
 その封筒を公証人と証人2人以上の前に提出し、自分の作成した遺言であることと氏名及び住所を申し述べ、公証人が、その封書に提出された日付と遺言者の住所、氏名とその遺言者の遺言書である事を記載し、公証人、証人、遺言作成者本人が署名押印するという方式で作成するものです。
 内容を秘密にしたい場合に作成されますが、その内容については十分検討しておかないと、公正証書のようにその内容自体の公証人のチェックがない分書き方を誤ると遺言が無効になるおそれがあります。
 我々がご相談をうけたときには、公正証書で確実に作成しましょうとすすめする事が多いのですが、終活に当たってのそれぞれの状況によって、遺言の作成方法を選ぶことになります。


 ところで、遺言の作成やその執行を弁護士がお手伝いする時に、遺された家族が自分の相続でもめることが無いように深慮した遺言書をどのように作成するか、相談者の方は真剣に考えておられることを感じます。
 財産の遺し方について各相続人の遺留分に反しない範囲で相続人の取得分に差をつけることで、親族間の紛争を避けられることもあります。
 また、ある遺言執行者から依頼を受けて遺言執行を代理で行ったケースでは、相続税節税の観点から現金貯金ではなく生命保険の形で遺産を遺すなどその控除額を考え抜いて見事な遺産の遺し方をされている方もいらっしゃいました。すばらしい終活の成果だと思いました。
 また、先ほど紹介した「エンディングノート」に、どうしてそのような内容の遺言としたのかの理由を詳しく書いておけば、遺言書に書ききれない思いを相続人に伝えることが可能となり、それによって、遺された相続人が遺言者の真意を理解して、遺産に関する紛争を防ぐ大切なツールになります。


 自分も人生の折り返し地点を過ぎ、いろいろ考えなくてはならないと思う今日この頃です。

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