弁護士の事件簿・コラム

子ども担当弁護士の仕事

弁護士 井上  泰

 NPO法人子どもセンター「てんぽ」が来年で10周年を迎えることになると聞きました。

 子どもセンター「てんぽ」とは10代後半の、児童虐待などで家庭などに安心して生活できる居場所がない子どもたちの緊急避難先となる子どものためのシェルターです。

 保護が必要になった時点ですでに18歳以上に達していたために、児童福祉法が予定している一時保護や児童養護施設への入所、里親委託等の対象者から外れてしまうけれど、行き場を失い、その保護を必要とする若者が存在しています。

 その事情は、家庭における虐待をはじめ、住み込みの仕事を失った児童養護施設出身者など多岐にわたります。

 自分が帰る場所がないという子どもたちは外からはおよそ推し量ることの出来ない大きな不安を抱えています。

 そのような子どもたちが安心して滞在ができるように、「てんぽ」にはスタッフやボランティアが常駐し、子どもたちと共同生活をおこなっています。あたたかい手作りの食事を供給し、子どもたちと向き合って一緒に生活してくださっているスタッフの方々には本当に頭が下がる思いです。

 同じ神奈川県弁護士会所属の弁護士が多くこのシェルターの運営にスタッフとして関わり、また入所する子どもの個別担当弁護士「子ども担当弁護士」として活動しています。私も「子ども担当弁護士」としてこれまで数名の子どもたちの担当をしています。

 子ども担当弁護士はてんぽに入所した子どもに寄り添い、日常生活の支援や必要な場合には法的支援を提供し、関係機関との連携を取り合いながら利用者である子どもの自立のためにその生活設計を共に考えていきます。

 具体的には親権者との間で当面の子どもの生活費の負担について折衝したり、将来的に親子としての関係を作り直せるようなきっかけを作ったりします。また学校や雇用先に対して利用者である子どもの事情などを理解してもらい、安定して登校したり、仕事に勤しめるような環境をつくったりもします。

 また、自立した生活が出来るように就職などについてのアドバイスを行い、また、シェルターを出た後にも定期的に連絡を取り、その生活状況や悩みを聞いたりして見守っていくそんな活動をしています。

 先日、嬉しい連絡がありました。

 かれこれ数年前、担当していた利用者(今では立派な大人の女性)が3歳の子どもの母親として優しいパートナーと一緒に元気に生活しているということでした。

 彼女の就職時に会社の寮まで荷物を運んだことや、新しい生活の準備で一緒に生活用品を取りそろえた事が昨日のことのようによみがえりました。

 今後も、微力ながら子ども担当弁護士として活動していきたいと考えています。

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