弁護士の事件簿・コラム

「特別寄与料」について

弁護士 野呂 芳子

 昨年来、相続法改正に関する話題を毎月取り上げていますが、今回は、改正のポイントの1つである「法定相続人でない親族からの特別寄与料の請求権」についてご説明したいと思います。

1 相続の原則とこれまでの法律
 亡くなられた方(「被相続人」といいます。)の遺産を相続する権利を法律で認められている人を、「法定相続人」といいます。
 被相続人から見て、子どもや、自分の配偶者は法定相続人ですが、子どもの配偶者は法定相続人ではありません。
 日本では、従来、長男が両親と同居し、長男の妻が両親の介護や看病に尽力する、というケースがよくありましたが、長男の妻は、法定相続人ではないため、ご両親が亡くなっても、相続に関しては蚊帳のそとに置かれ、「一生懸命お世話をしたのに、何ももらえない・・・」ということがままあったのです。

2 改正法による変更
 今般の改正法により、法定相続人ではない親族も、被相続人の介護や看病等に尽力し、一定の条件を満たした場合は、法定相続人に対し、金銭の請求ができるようになりました。

3 請求できる親族の範囲
 今回、このような請求が認められる親族の範囲は、「6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族」で、例えば、長男の妻(1親等の姻族)はもちろん、ひ孫の妻(3親等の姻族)やいとこの孫(6親等の血族)のような遠縁まで含まれますので、請求権者の範囲はかなり広いといえます。

(親族図)

4 請求できる条件
 このように、請求権者の範囲は広い一方、請求できる条件は、以下のとおりで、割合厳しいと言われています。

(1)「無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと」
 無償、つまり、報酬などもらわずに尽くしたことが必要です。

(2)「被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をしたこと」
 無報酬で尽くしただけではなく、それにより、被相続人の財産を維持したり、増やしたりすることに特別の寄与(貢献)をしたということも条件です。
 例えば、食事の支度とか、身の回りの世話とか、親族であればある程度は当然に行う家事や世話では不十分で、本来はヘルパーさんなど専門職を頼まなければいけないような仕事(入浴介助)などを行い、その分、被相続人の支出を減らした、というような関係が必要になってくるのです。
 ただ、実際に、親族のどのような行為が「親族としての当然のお世話」で、どこからが「特別の寄与」なのか、「特別の寄与」に当たるとしても、その行為を金銭に換算するといくらなのか、というのは、とても難しい問題です。
 一般論としていえば、「寄与の時期、方法、程度や遺産の額など一切の事情を考慮して定める。」ということになりますが、具体的なことは、ケースバイケースとしかいいようがないのが実態です。

(3)「特別の寄与」の例
 実は、「特別の寄与」という考え方はこれまでもありましたが、これまでは法定相続人だけが主張できるものでした。前記のとおり、今般の改正法により、親族も請求できることになったわけですが、今までも、「寄与の有無、程度」は相続問題の中でも、非常に争いになりやすく、評価が難しい問題でした。
 今までで認められた例は、あくまで法定相続人による療養看護についてですが、例えば、
① 病気で寝たきりの被相続人を約2年半殆どつきっきりで世話をした子どもについて、通常の扶助を超える部分の評価として120万円を認めた例(神戸家裁豊岡支部平成4年12月28日審判、遺産約850万円)
② 結婚以来約20年間被相続人と同居し、入院10年前から痴呆が目立つ被相続人の療養看護を家庭で不寝番をするなどし、たえず付き添いながら行い、入院後死亡までの5ヶ月間毎日タクシーで病院に通い、付き添い、身の回りの世話をした子どもについて、20年間中、被相続人の痴呆が生じた後半の10年間の看護を「特別の寄与」と認め、看護婦・家政婦紹介所の協定料金を基準としてその60%を寄与分と算出した例(盛岡家裁審判昭和61年4月11日審判)
などがあります。
 親族と法定相続人は立場も違いますし、親族の「特別の寄与」と法定相続人の「特別の寄与」は条文も違いますので、「特別の寄与」と認められるために要求される内容は全く同じではないと思われますが、これまでの法定相続人の例も、ある程度参考になると思います。

5 どのように請求するか
 いずれにしても、請求しなければ認められることもありませんので、ここで請求の方法を見ておきましょう。

(1)請求の方法
 「自分は寄与した。」と思う親族は、被相続人が亡くなられた後、法定相続人に対し、「寄与に応じた額の金銭」つまり「自分の働きに見合っていると考える金額」を請求します。
 親族と法定相続人との協議で話がまとまれば問題ないのですが、協議がそもそも出来ないときや、協議はできたけれどもまとまらなかったというときは、家庭裁判所に対し、「自分の寄与を認めてください。」という請求をすることになります。

(2)期間制限にご注意!
 請求するのには期間制限があり、
① 被相続人が亡くなったことと、法定相続人が誰かということを知ったときから6か月を経過した時
 あるいは
② 被相続人が亡くなったときから1年を経過したとき
 は、請求できなくなります。
 なぜこのような期間制限があるかというと、このような親族からの請求があることを想定せずに、法定相続人間で遺産分割を終わらせてしまい、遺産も使い切ってしまったら、忘れた頃に、親族から請求されて大混乱となった、というような事態を防ぐためです。

(3)請求のために準備しておくこと
 このような請求をしようと思う親族は、「自分が寄与したこと」を、法定相続人や裁判所に認めてもらわなければいけないわけですから、「なるほど、このように寄与したのか。」とわかってもらえるような資料をできるだけ残しておく必要があります。少なくとも、何時間、何をしたかというような介護日誌は丹念に付けておく必要があるでしょう。

6 この改正法による影響
 今般の改正法により、尽力した人に正当な報酬が与えられる道が出来たことは進歩であるといえます。
 一方、懸念されるのは、相続問題の複雑化、長期化です。
 相続問題は、お金の問題以上に、家族としての長い歴史や感情が複雑に絡むため、法定相続人間だけでも、こじれるケースが多々あります。
 そこに、新たに親族が入るわけですから、当事者も多くなりますし、「誰が誰に味方するか。」といった当事者間の人間関係も複雑になるでしょう。その分、寄与の有無、程度を巡る紛争の長期化は避けられないと言われています。
 そのような懸念ももたれている改正ではありますが、こじれたときは、当事者の方々も私たち弁護士も裁判所も、「尽くしてくれた人に報いる。」という本来の制度趣旨に立ち返り、適切な運用がなされるよう、力を合わせていかれれば、と考えています。

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