弁護士の事件簿・コラム

離婚に伴う親権の争いについて思うこと

弁護士 井上  泰

 子どもの親権ないし監護権を夫が取得するのか妻が取得するのかについては、離婚を検討されている方にとっての大きな関心事です。
 話し合いで決める協議離婚や家庭裁判所での調停、裁判いずれであっても大きな争いとなる事は少なくありません。
夫婦間で夫婦自身の問題とは別に、愛する子どもにとってどちらが親権者として育てていくのがよいかを冷静に判断するのは夫婦間の感情のもつれが大きければ大きいほど難しいのかも知れません。
 ただ、離婚を決意した方に寄り添う立場として、親同士が争うことにより子供たちが小さな胸を痛め、大きな不安を抱えていることを忘れてはならないのだと感じています。
 子どもたちは実は大人が考えているよりもずっといろいろなことを考えて行動することがあります。

 以前ご相談を受けた案件で、離婚を決意した母とともに、父の住む家から出て、3人で暮らしはじめた小学生の兄弟がいました。
 ところが、ある日突然、その長男が、遠く離れた父の家に帰宅してしまったことがありました。
 本当は兄弟一緒に母と生活したいのに、自分が父親の下に戻ることで、また家族4人で暮らせるのではないかと思ったというのです。
 このような場合、子どもの行動の表面的な意味だけでなく、その心の叫びを注意深く汲み取って、それぞれの親と子どもの関係を調整する必要があり、これは本当に難しく悩ましい限りです。

 協議ないし調停における夫婦間の話し合いで親権者をどちらにするか決着をつけられない場合には、最終的には裁判で「子どもの福祉」の観点から判断されることになります。家庭裁判所の調査官が家庭訪問をしたり子どもと直接あったりして裁判所の判断のもとになる事実を調べることもあります。
 感情のもつれがひどい場合には、相手方の架空の虐待の事実を主張して、争うような場合もありますが、そのような主張が結局は、子どもと自分の関係をかえって悪くしてしまうこともあり得ます。

 離婚という人生の重大事に、本当の意味での子どもの成長のために何がいちばん良いのかを考えることは大変難しいことです。
 しかし、それぞれの親と子の関係ができるだけ離婚後も良好である為に、どのようにするのがよいかを「親」として考えてほしいと願うと共に、面会交流等を通じて、その気持ちを調整して行くことが自分たちの大切な職責であろうと考えています。
 以前ご依頼を受けた方から、当時小学生だった子どもが無事に大学に入学したとのご報告や社会人になって家計を助けてくれるようになりましたというお手紙を頂くと、正直とても嬉しい気持ちになります。

 離婚をされた方自身もそうですが、そのお子様が幸せに生活できることを願ってやみません。

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