弁護士の事件簿・コラム

不貞行為の慰謝料について

弁護士 野呂 芳子

 ここ数年、芸能人や政治家の不倫問題がしばしばマスコミでとりあげられています。
 一般の方でも、ご自身が配偶者の不貞行為に苦しまれたり、あるいは、周囲からそういう相談を受けられたりすることもあるでしょう。
 そこで、今回は、不貞行為とその慰謝料について、不貞行為をされた方からよくいただくご質問にお答えしたいと思います。

1 そもそも「不貞」って何でしょうか?
 法律の世界でいう「不貞行為」は、ストレートに、「配偶者以外の異性との肉体関係(性行為)」を言います。
 それ以外の、たとえばキスをしたとか、一緒に出掛けたとか、そういった行為は「不貞行為」にはあたりません。

2 性行為をしていなければ何をしてもいいのですか?
 そうではありません。たとえ、不貞行為までなくとも(あるいは証明できなくとも)、異性と、社会常識を逸脱するような関係を持ち、夫婦生活の平穏を害したような場合は、慰謝料請求が認められることもあります。

 過去の裁判例では、
① 夫と女性が、数万円のプレゼント交換をしたり、食事やお茶を共にしたり、一緒に大阪に日帰り旅行したり、女性が夫に思わせぶりな手紙を書いたりしていたという事案で、その女性に、妻に対し10万円を支払うよう命じた例(平成15年、東京簡易裁判所)。

② 妻が、アルバイト先の大学生と恋愛関係になり、その大学生が、夫に、「妻と結婚させてほしい。」と懇願し続け、結局夫婦が別居・離婚に至ったという事案で、その大学生に、夫に対し70万円支払うよう命じた例(平成17年、東京地方裁判所)。

③ 夫が、同僚の女性と、互いの出張先を行き来したり、花火大会を観覧したりしていたという事案で、裁判所は、「被告(女性)が、原告(妻)の夫のアプローチをはっきり拒絶せず、逢瀬を重ねて二人きりの時間を過ごしたことは、社会通念上、相当な男女の関係を超えたもの」として、女性に、妻に対し44万円を支払うよう命じた例(平成26年、大阪地方裁判所)。
などがあります。

 これらはいずれも、不貞行為の有無も争点になり、裁判所は、「証拠上不貞行為までは認められない。」としつつも、一定の慰謝料の支払いを命じたものです。
 ただ、こうしたケースの場合、不貞行為まで認定された場合に比べると、慰謝料はやはり低めであるといえるでしょう。

3 慰謝料はどれぐらいもらえるのでしょうか?
 これはケースバイケースなのですが、一般的に言えば、不貞行為が原因で離婚にまで至った場合は、不貞行為を行った配偶者に対しては、300万円程度認められることが多いといえます。
 一方、不貞の相手となった第三者が支払う慰謝料は、配偶者に対する慰謝料よりは低くなることが一般的です。
 これは、「貞操を守る。」という約束をし、その義務を直接負うのは、結婚の当事者(結婚した配偶者)であるから、という考え方によるものです。

 また、慰謝料の金額は、
① 不貞の期間
② 頻度
③ 態様
④ 不貞行為の前の家庭の状況
⑤ 子どもの有無
など様々な要素で変わってきます。

 あと、私が弁護士として20年以上活動してきた経験から言いますと、裁判になった場合は、「裁判官による。」ところもかなり大きいと感じています。
 私が以前担当した事件では、ご夫婦には未成年のお子さんが3人いた中、夫が他の女性との間に子を設けてしまい、離婚に至ったというお気の毒なケースで、妻が、相手の女性に慰謝料を請求したところ、担当裁判官は、「私は、不貞はどんな不貞でも200万円が上限と決めています!」と断言し、あっけにとられたことがありました。要するに、個々の事案をきめ細かく検討する気などないのだと感じられました。
 また、やはり妻側代理人として相手女性に慰謝料請求したケースですが、相手女性が妻に数々の嫌がらせや攻撃行為をしており、この点で、通常事案より慰謝料は高額であるべきと考えられたのですが、担当裁判官は、にやにやしながら、「みんな、『私の事案は酷いケースです。』って言うんですよね……。」と言っており、かなり怒りを感じました。
 裁判官は、多くの事件を抱え、一つ一つのケースを吟味する時間的余裕も精神的余裕もないのかもしれませんが、当事者にとっては、「よくある不貞事件の1つ」ではなく、人生に係わる大変な問題ですから、裁判官のこうした言動に接すると、とても残念に感じます。
 一方、やはり私が妻側代理人で、不貞相手の女性に慰謝料を請求した事案で、500万円の支払が命じられた例もありました。この不貞発覚の後も、夫婦は別居も離婚もしなかったこと、お子さんが成人されていたこと、配偶者ではなく相手女性に対する請求であったこと等を考えますと、500万円はかなり珍しい高額慰謝料だったと思います。
 結局のところ、色々な要素を考慮しつつも、その担当裁判官が、どれほど当事者の状況や思いに寄り添ってくれるか、ということが大きいのだろうと感じています。

4 どんな証拠があれば不貞行為と認められますか?
 携帯電話やスマホが普及してからは、メールやラインのやりとりで不貞行為が発覚することが非常に多くなっています。
 それを突きつけて、配偶者が不貞行為を認めればいいのですが、「単に言葉遊びだ。」等とあくまでしらを切った場合、メールやラインだけですと、残念ながら、裁判までいった場合は、裁判所に不貞行為まで認定してもらうのはかなり難しいのです。
 裁判官は、真実を見抜く特殊な能力を持っているわけでも、神でもありませんし、裁判所が認定するのは、あくまで「証拠がある事実」だけなのです。
 私たちの、あるいは一般社会の常識からして、「こんなやりとりしていて、不貞がないわけない!」と誰もが思うような場合でも、裁判所では、もっと強力な証拠、たとえばラブホテルの出入りの写真などないと、不貞行為までは認めてもらえないと思っていただいたほうがいいでしょう。

5 ラブホテルに入って行く写真も撮ったのに、不貞行為を認めません。相手の言い分が通りますか?
 実際、ラブホテルの出入りの写真を撮られても、「話しをしていた。」等と不貞行為を否定するケースはありますが、裁判では、こうした相手の言い分はまず通りません。ご安心ください。

6 不貞行為は認めましたが、「その前にもう夫婦関係は破綻していた。」と言われてしまいました。そういう反論は通るのでしょうか?
 これは、不貞行為で慰謝料請求した場合、よく出てくる定型的なる反論です。
 実際、不貞行為の前に既に夫婦関係が破綻していたと認定される場合は、不貞行為についての慰謝料支払義務はないと言われています。
 ただ、「既に破綻していた。」と認定されるためには、やはり、相当期間の別居、それも修復する可能性のない別居状態などがないと難しいでしょう。
 同居して普通に家族生活をおくっていて、不貞行為が発覚した途端、「実はもう破綻していたのです。」と言ってもまず通らないとお考えください。

7 最後に
 不貞行為については、今回ご紹介した以外にも、様々な論点や判例がありますが、そうした法律論はさておき、幸せになるために結婚し、相手を信じていたのに裏切られた、ということのショックは言葉に言い尽くせないことだと思います。
 混乱して何も考えられない、うつになり通院せざるをえなくなった等のお話もよく伺います。
 このような辛い問題には遭遇しないのが一番ですが、もし遭遇してしまった場合は、まずは、ご相談いただきたいと思います。
 今後、離婚されるにしても、修復を試みられるにしても、混乱した心と状況をゆっくり整理していき、落ち着いて考えた後で決断しないと、あとで後悔しかねません。
 ご相談をしていく中で、辛い状況の中でも、今後のご相談者にとって最善の選択ができるよう、お手伝いができればと思っています。

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