国選弁護制度の拡大について

弁護士 井上  泰

2018年3月2日

1 はじめに
 今回は刑事手続における国選弁護人制度の拡大について取り上げます。
 刑事手続とは、傷害や窃盗等の犯罪を犯したと疑われる者に対して、警察や検察が捜査を行い、裁判でその人が罪を犯したのかどうか、犯したとしてどのような刑罰を科すかを判断する手続をいいます。
 犯罪を犯したと疑われ捜査の対象となっている人を『被疑者』といいます。
 また、捜査が終了し、被疑者について検察官が犯罪を犯したと判断して、裁判所に裁判を求めることを『起訴』といい、起訴された被疑者は『被告人』という立場に変わります。

2 2016年の刑事訴訟法の改正
 2016年に刑事訴訟法が改正され、今年2018年の6月までに勾留状が発せられたすべての被疑者が国選弁護人を選任することが出来ることになりました。
 『国選弁護人制度』とは、刑事事件において、資力が乏しいなど私選弁護人を選任できない被疑者、被告人のために国が弁護人を選任し、その費用も原則として国が負担するという制度です。

3 捜査弁護の重要性
 もともと国選弁護は捜査が終わって起訴された被告人にのみ認められていました。
 しかし、弁護士会は、えん罪の被害は捜査段階においてこそ生じる危険があること、犯罪を行ったと疑われて身体を拘束された人に対して捜査が適正に手続が行われているかを監視し、精神的な助力を行う必要性から、起訴後に国選弁護人を選任するだけでは不十分で、もっと前の捜査が行われている段階こそ国選弁護人の選任がなされるべきであると国に働きかけてきました。
 それとともに、捜査段階での国選弁護人制度が存在しない状況のもとで、被疑者の権利を守るため、逮捕、勾留された人からの要請で弁護士が一回無料で要請者のもとへ面会に行くという当番弁護士制度を1992年から各地の弁護士会で立ち上げて対応してきました。

4 被疑者国選制度の始まりとその拡大
 各地の弁護士会での当番弁護士制度の実践や、弁護士会などによる国への粘り強い働きかけが効を奏して、2006年10月から、殺人や放火などの一部の重大事件の被疑者に限定してではありますが、国選弁護人制度がスタートしました。また、その後、2009年には窃盗や傷害、覚せい剤取締法違反など「死刑、無期、長期3年を超える罪」を犯したとされる被疑者に対して拡大されました。
 そしていよいよ、裁判官によって、逮捕に引き続き10日間の身体拘束を認めるという勾留状が発せられたすべての被疑者が国選弁護人を選任することが出来るようになります。
 暴行やオーバーステイ、死体遺棄など、これまで国選弁護人の選任が認められなかった案件でも、勾留された被疑者の方には国選弁護人の選任が可能になります。
 一定の資力要件などの条件がつきますが、被疑者の立場になり身体を拘束された人にとって広く弁護人の助力を受けることが可能になります。
 我々弁護士も、被疑者段階での刑事弁護活動について、えん罪の防止はもちろん身体拘束からの解放や、不起訴処分にむけて努力していかねばなりません。

5 残された課題
 他方、逮捕段階では今のところ国選弁護人が付く余地がありません。逮捕直後、もっとも精神的に不安定な状態で弁護人なしで捜査機関からの追及に対して独りで対応するのは非常に厳しいものがあります。
 黙秘権の行使も出来ずに、逮捕段階で既に事実と異なる内容の自白調書を作られていたり、自分がやってもいない罪を認める上申書などを書かされている場合も少なくありません。
 このような事態を防ぐためには広く逮捕された段階で国選弁護人を選任することができる制度の導入が必要です。
 昨年の11月に弁護士会では「もう待てない!逮捕段階からの全件弁護の実現を」というシンポジウムを横浜で開催し、逮捕段階からの公的弁護制度の実現に向けて提言をまとめました。
 このように、勾留についての全件国選弁護対象への拡大が実現しますが、我々は逮捕段階で弁護士を依頼できる制度の構築にむけてさらなる運動を始めています。

6 最後に
 もしも、今の段階で自分や親族、知人が逮捕された時などはまずは当番弁護士の派遣を申し込むことで、現在利用できる制度について詳しく知ることが出来ますし、私選で弁護士を依頼することで、逮捕直後の段階から継続的な弁護を受けることが可能になります。
 また、逮捕され勾留される前の段階で経済的に弁護士費用が出せない場合には、勾留前被疑者援助制度(弁護士会がその会費で資力の無い被疑者へ原則無償で援助する制度)を利用することも可能です。
 刑事事件は逮捕後、検察官が起訴又は不起訴を判断するまでの間の時間との闘いとなりますので、出来る限り早期に弁護士に連絡することをお勧めします。

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