「茶のしずく」石鹸アレルギー損害賠償訴訟、和解成立

弁護士 栗山 博史

2017年9月19日

1 はじめに
 2013年3月8日のコラムで、「茶のしずく」石鹸アレルギー損害賠償訴訟についてご紹介させていただきました。
 この裁判は、「茶のしずく」石鹸を実際に使用して、小麦アレルギーになってしまった被害者の方々が、石鹸の製造販売業者である株式会社悠香(ゆうか)等を相手に損害賠償を求める訴訟でした。
 「茶のしずく」石鹸は通販によって販売されましたので、「茶のしずく」を購入・使用して被害に遭った方は全国にいらっしゃいます。北は札幌地裁、南は鹿児島地裁まで、全国の裁判所で悠香等に対し訴訟が提起されました。
 神奈川では、2012年4月から2013年11月までの間に、合計61名の被害者の方々が提訴し、第一次提訴から5年以上を経て、ようやく61名の原告全員、和解により訴訟は終結しました(全国の事件が全て和解によって終了したということではなく、和解での解決に至らず、今後、判決が出されることが見込まれる裁判所もあります。)。

2 どんな被害だったのか
 「茶のしずく」石鹸は、これを使えば肌がきれいになる、といううたい文句でテレビ、雑誌等で宣伝された通信販売の商品です。購入された方々は、ほぼ毎日、朝か夜、あるいは、朝と夜2回という感じでこの石鹸を使って洗顔をしました。石鹸を使い続けていた後のある日、パンやパスタなどの小麦製品を食べて運動したところ(徒歩や入浴でも)、急に、目が開けられないほどにまぶたが腫れ上がり、顔はパンパンになってかゆくなりました。そして、人によっては、じんましんなどの皮膚症状、腹痛・嘔吐などの消化器症状、ゼーゼー、息苦しさなどの呼吸器症状が同時多発的にやってくるアナフィラキシー症状が出ました。さらに症状が重い人では、呼吸困難、血圧低下、意識レベルの低下というショック症状に陥った人もいました。
 このように、「茶のしずく」石鹸を使用し続けた結果、これまで全く小麦アレルギーのなかった方々の身体が、小麦アレルギー体質になり、実際に小麦を摂取し、その後、特に運動をすることによって、アナフィラキシー症状が誘発される(小麦依存性運動誘発アナフィラキシー=FDEIA)という人が相当数出てきたのです。
 被害者の方々は、このような症状の原因が「茶のしずく」石鹸によるものだということがわかった後は、当然のことながらこの石鹸の使用を中止しましたが、小麦アレルギー体質になってしまったので、小麦製品を食べて生活することができなくなりました。被害者の方々には個人差があって、今では激しい運動さえしなければ食べることはできるという方もいますが、一度体験した恐怖から、今でも、パン、麺類、お菓子など、明らかに小麦が含まれている製品はもちろん、ごくわずかでも小麦が含まれている食品を避けて生活しているという方も多くいます。

3 製造物責任を問う
 私たちは、このように、もともとアレルギー体質でなかった人たちを、アレルギー体質に変えさせてしまうような「石鹸」は、製造物責任法にいう「欠陥」製品、すなわち、このような製品が通常備えるべき安全性を欠いた製品であり、これを製造した業者には損害賠償責任がある(製造物責任法は、欠陥製品を使用したことによって損害が発生した場合には、製造業者に過失がなくても損害賠償責任があると定めています)と主張しました。
 しかし、被告側は、「茶のしずく」石鹸を使用した人がすべて小麦アレルギーになっているわけではない、全使用者(悠香の主張によれば約500万人)の中に占める発症者(確定診断を受けた人が2000名に満たない)の割合(0.04%)は極めて小さい、アレルギーの発症は遺伝的要因・環境的要因によって決まるものであって、原告らの「過剰免疫体質」こそがアレルギー発症の原因だなどと主張して、「茶のしずく」石鹸の欠陥性を否定してきました。
 しかし、それまで小麦アレルギー体質ではなかった方々が、「茶のしずく」石鹸という、グルパール19S(加水分解小麦)というアレルギー原因物質を含んだ石鹸を使って繰り返し使い続けることにより、加水分解小麦が皮膚や粘膜を通じて体内に吸収され、これを感知した細胞が、小麦に対して反応する抗体を作らせて、それ以降、体内に吸収された小麦に対して、身体が過剰に反応するようになってしまったわけです。石鹸も、石鹸に含まれた原因物質も、ともに人工的な製造物です。これまで市販の通常の石鹸・ボディーソープ等を使用して全く問題なかった方々が「茶のしずく」石鹸も安全な商品だと思って使い続けて小麦アレルギー体質になってしまったのですから、それが「欠陥」製品であることは明らかだと考え、徹底的に反論してきました。

4 おわりに
 「茶のしずく」石鹸の欠陥性は明らかだとしても、これによる損害をどう見るかというのは難しい問題でした。原告の方々から被害発生から現在に至るまでのご本人やご家族の苦労を聞かせていただきましたが、欠陥製品によって作り出されたアレルギーとはいっても、その被害の大きさ、影響は個人差がかなりあります。当時、アナフィラキシー・ショックを経験した方、そこまで症状が重くならず腫れ等の身体症状でおさまった方、また、現状で見ると、今ではふつうに食べられる方、運動を控えれば食べられる方、全く食べられない方、少量であれば食べられる方等々さまざまです。
 原告全員の和解、しかも、他の裁判所の和解水準を先例として参考にするとなると、基準も画一化されます。とりわけ今でも小麦アレルギーの被害に苦しんでいる方からすれば、十分な賠償とは到底いえないものだと思います。それでも、被告側がまとまったお金を支払うという形での和解に応じたのは「茶のしずく」石鹸の製造・販売について責任を認めたからであるといえます。このような被告側の対応を受けて、5年以上に及ぶ長い戦いに一区切りつけて、前に向かって進んでゆこうという決断された原告の方々に心から敬意を表したいと思います。

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