高齢者の交通事故について

弁護士 野呂 芳子

2017年6月9日

1 高齢者による交通事故の現状
 ここ数年、高速道路の逆走、ブレーキとアクセルの踏み間違えによる衝突等、高齢者による交通事故のニュースをよく見聞されるかと思います。
 警察庁の統計によりますと、平成27年に全国で起きた75歳以上の高齢者による死亡事故は458件。これは、平成17年の457件とほぼ同じなのですが、死亡事故全体の件数に対する比率を見てみますと、平成17年の7.4%から、平成27年には12.8%に上がっています。
 つまり、我が国全体としては死亡事故はここ10年で減少しているのに、75歳以上の高齢者による死亡事故は減少していないのです。
 また、死亡事故の原因を見ますと、「操作不適」つまりハンドル操作のミスや、ブレーキとアクセルの踏み間違えが29%と最も多く、ついで「安全不確認」が23%、以下、「内在的前方不注意(漫然運転等)」が19%、「外在的前方不注意(脇見等)」が9%、判断の誤りが8%と続いていました。

2 高齢者による交通事故の原因
 人間、年を重ねていけば、若い頃のようにはいかないことがどうしても増えていきます。(かくいう私も例外ではありません。)
 特に、交通事故に繋がりやすい「衰え」としては、注意力、集中力、瞬間的な判断力の衰えや、動体視力、空間認識能力や反応時間の遅れなど身体機能の衰えなどが指摘されています。

3 道路交通法の改正
 このように、高齢者による交通事故が社会問題化する中、今年3月12日に施行された改正道路交通法では、高齢者による交通事故の防止が大きなポイントの1つとされ、75歳以上の高齢者の運転に関する内容が大幅に変更されています。
 具体的には、免許の更新期間が満了する日に75歳以上の方は、高齢者講習の前に認知機能検査を受けていただくことになりました。
 また、今回の改正では、75歳以上の高齢者が、逆送や信号無視など、特定の交通違反をした場合にも、臨時認知機能検査が義務づけられました。
 認知機能検査は、認知症の確定診断をする検査ではなく、①まずは、加齢によって認知機能(記憶力、判断力、空間認識能力など)が低下することをご本人に自覚してもらい、安全運転意識を高めることと、②対象者を分類することで認知機能に対する安全運転指導や医療機関を紹介することなどを目的とした検査です。
 この検査の結果は3種類に分かれ、「記憶力・判断力に心配ありません。」又は「記憶力・判断力が少し低くなっています。」という判定結果が出た方は、高齢者講習に進めますが、「記憶力、判断力が低くなっています。」という判定結果が出た方には、臨時適性検査(専門医の診断)の受検や医師の診断書の提出が義務づけられることになりました。
 医師により、認知症と診断されますと、免許の取り消し、または停止になります。

 また、このように医師に「認知症」と診断された場合のほか、
・特定の違反行為をしたのに、臨時認知機能検査、臨時高齢者講習を受けない
・臨時適性検査(専門医の診断)を受けない
・医師の診断書を提出しない
 場合も、今回の改正法では、免許は、取り消しまたは停止になります。

4 免許の自主返納について
 また、以前から、「免許の自主返納」という制度もありますが、なかなか進まないということもよく言われるところです。
 なぜ、自主返納しないのか、理由は、運転者によって様々でしょうし、色々な見方もあるでしょうが、私は大きく分けて2つあると思います。
 1つは、自分の衰えを自覚していない、または、自覚したくないという心情から返納を拒むケースです。
 高齢になっていきますと、ただでさえ、職業から離れたり、子どもが独立したり、寂しいと感じる状況が増えていきます。そのような中で、今まで自分が出来たことが出来なくなってきていることを受け入れ、また1つ何かを手放さなければいけないというのは、私たちが想像する以上に、辛いことなのかもしれません。
 しかし、実際に衰えがないのであれば別論、明らかにあるのに免許に執着し、事故を起こせば、取り返しがつきません。交通事故は、しばしば、言葉を失うような悲惨な結果を巻き起こします。
 取り返しのつかないことが起こっては遅いのですから、もし、ご本人が免許の返納を拒む、あるいはその意思がないという場合でも、周囲から見て、返納が必要と思われたら、ご家族でも近所の方でも友人でも、身近な方が粘り強く働きかけをするべきであると思います。
 ただ、自分を客観視する、というのは、どのような年齢であっても難しいことですし、そこに「認めたくない現実」があればなおのことでしょう。
 そうした場合は、運転や日常生活に関するチェックリストを一緒にやってみて考えてもらう、という方法もあるかと思います。
 2つ目は、現実の生活上、運転をしないと生活が成り立ちにくいケースです。
 都市部では、返納しても、バスや電車等の代替交通機関の利用が可能です。
 しかし、地域によっては、バスは2時間に1本しかないというような場所もままあります。
 こうした地域に居住される方にとっては、「免許を返納したらどうやって生活するのか。」という訴えは切実なのでしょう。
 現在、こうした実情に合わせて、様々な自治体で、免許を自主返納した際に利用できる割安タクシー、電動自転車の購入への補助金、バスの乗車割引券、加盟店や文化施設での特典等、様々な対策もとられてきているものの、残念ながら、特効薬とはなっていないようです。

5 自動運転車について
 最近は、「自動運転車が普及したら高齢者による交通事故が減少するのでは?」と期待する声も聞かれます。
 一口に自動運転車といっても、一部自動運転車から「完全自動運転車=無人運転者」まで4段階あります。経済産業省は、平成28年9月13日、それまで「平成37年」としていた完全自動運転車の販売開始目標を前倒しにすることを発表しましたが、技術や法整備が追いつくのか、どの程度普及するのか、まだまだはっきりしない部分が多いのが正直なところだと思います。
 ただ、人間のミスを出来るだけ避ける、という意味で、自動運転車の開発及び販売が、高齢者による交通事故の減少にプラスになることはおそらく間違いないでしょう。
 また、自動運転車の免許について、現行の普通免許のままとするのか、それとも専用免許のような形とするのかも今後の検討課題であり、4段階のうちのどの段階の自動運転車なのかによって変わりうるところですが、仮に、普通免許とは異なる専用免許とする場合は、普通免許の自主返納者には、自動運転車の購入のための補助金を支給するなど、自主返納に資する制度設計を行っていくことも可能であると思います。

6 最後に
 高齢者の方のお気持ち、生活の実情など、運転を継続したい理由は十分に理解できます。
 しかし、何よりも優先すべきことは、「交通事故を起こさない。」ことです。交通事故は、被害者とその家族の生活は勿論、加害者とその家族の生活をも破壊するものだからです。
 また、本日は、高齢者が加害者となるケースを書きましたが、被害者になるケースも多々あります。
 都内では、高齢者が歩行者あるいは自転車乗用中の死亡事故の多くは、自宅から500メートル内で起きているそうです。「近くだから」と油断はできないということです。
 これから日本は益々高齢化社会が進んでいきます。
 誰も、加害者にも被害者にもならないよう、人生の実りの時に不幸な経験をすることがないよう、過ごしていただきたいと願っています。

「弁護士の事件簿・コラム」一覧へ >>>