弁護士の事件簿・コラム

若者を狙った悪質商法にご注意を

弁護士 井上  泰

1 以前このコラムで原野商法の二次被害について書きましたが、最近、立て続けに電話勧誘による詐欺的な商法のご相談を受けました。
 今回の相談の一つはいわゆる「開運商法」についての相談でした。
就職活動の中で将来に不安を持った若者の心理につけ込んで、電話で勧誘し開運の品などといって翡翠で出来たという数珠を購入させ、御利益がないとして解約などを申し入れると、今度は邪気が憑いているなどといって祈祷料を支払わせるといった案件でした。
 残念ながら販売した会社の実体はなく、被害回復が困難な事例でしたが、就職活動という人生の岐路にあたって不安を持つ若者の弱みにつけ込む卑劣なやり方に憤りを感じました。
 もう一方は、職場に投資型のマンションの販売員から電話があり、それをきっかけに販売員が職場に押しかけて、つい断れずに面会したところ「年金制度が破綻しかかっている現状でこのまま座していれば高齢者破産に追い込まれるのは必至である。」などと投資型マンションを購入するよう勧誘にあった。一度は何とか追い返したもののそれを契機に、何度も職場に勧誘の電話がくるようになって困り果ててしまった。
 相談者が、販売員に対して、喫茶店で再度面会し、勧誘を止めてほしいこと、会社に電話しないでほしいと願い出ると、それまで温和に話しをしていた販売員が豹変し「アポを取って会うということは社会人として契約をすることを前提にしたということだ。およそ責任ある社会人として考えられない行為である。」とか、「家族に相談する。」などと言うと「何でも自分で決められないのは大人とはいえない。営業妨害で告発する」などと恫喝に等しい言葉を重ねて、動揺した相談者に契約を押しつけたというものでした。

2 私が、弁護士登録した20年前にも、成人になったばかりの若者が資格商法の教材を重ねて購入させられるといった被害が横行していました。教材とマンションで品は変わりますが、共通しているのは若者の将来への不安につけ込み、仕事中の職場に連絡して、不意打ち的に契約を迫るという酷い販売実態でした。
 具体的には、これからは資格の時代であるとして資格取得の為の教材の販売会社からセールスの勧誘があり、はっきりと断れないでいたところ、職場に執拗に電話がかかってくるようになった。このままでは会社に迷惑がかかると思って一度販売員と面会して断ろうとしたところ、結局、月給の3ヶ月分以上の教材をクレジットで購入させられるというものでした。
 このような場合の勧誘の方法は様々でしたが、今回相談を受けた投資型マンションの販売のように、若者が喫茶店などで販売員と会って契約を断ろうとすると、アポを取るまでは温和に話しをしていた販売員が豹変し、若者の人格を否定するような恫喝に等しい言葉を重ねて若者に契約をさせるというようなケースはたくさんありました。
 さらに一度契約をすると、それをいいことに重ねて別の教材を売りつけ、気がつくとその若者のクレジットの月額の支払い額は給与の金額をしのぐようになっているという被害状況でした。

3 今回の相談を受けてあらためて電話勧誘や訪問販売などの形態を利用した悪質商法はセールストークや商品を変えて生き延びていて、このような被害はいまだ多く発生しているということを思い知らされました。
 これらの被害に対しては、私たち弁護士は、販売会社が存在し、営業をしている場合には、クーリングオフ制度や民法上の詐欺や錯誤などの規定を元に販売会社やクレジット会社との間で勧誘行為の違法性を主張して交渉によって解約したり、交渉に応じない場合には裁判でその救済に努めてきました。
 ここ20年で消費者被害を防ぐための消費者保護のための法律はその隙間を埋めようと改正を重ね、また消費者契約法などの新しい法律が作られたりしていますが、いたちごっこである面があることは否定できません。
 このような電話勧誘販売などで契約させられて困った場合には、少しでも早く法律の専門家である弁護士にご相談にいかれるか、消費生活相談センターなどに相談し対策を講じて被害を食い止めるべきです。
 まずはクーリングオフという制度(訪問販売や電話勧誘のような不意打ち的な勧誘では、冷静に考える余裕もないまま契約してしまいがちであることから、特定の取引に限り、一定期間内であれば無条件で契約を解除できる特別な制度)を使い、無条件解約が可能かどうかを調べて、実行することが肝要です。
 またその一定の期間が経過してしまった後であれば、特定商取引法や消費者契約法など法律に基づき、悪質業者への契約取消、解除などで対応できるかを検討し、業者への交渉や裁判で解決を図っていくこととなります。
 なにより、このような被害に遭わないことが一番なのですが、納得の出来ない契約をさせられた場合には、素早い対応することが大切です。

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