少年事件における試験観察について

弁護士 大村 俊介

2016年8月20日

 少年事件には、「試験観察」という、成年の刑事事件にはない特徴的な制度があります。今回はこの制度について解説したいと思います。

1.試験観察とは
⑴ 試験観察とは、家庭裁判所が「保護観察」や「少年院送致」といった最終処分を一旦留保し、しばらくの間、調査官に少年の動静を観察させる、という中間的な処分(少年法25条1項)のことです。その期間はおおむね、在宅の場合で3~4ヶ月、後で述べる身柄付き補導委託の場合で半年程度といわれており、観察の結果を踏まえて、改めて審判が開かれて終局処分が下されます。結果が良好であれば「保護観察」や「不処分」とされます。

⑵ 少年法がこのような制度を設けているのは、少年は成長発達の途上にあるため、性格の歪みを矯正したり、周囲の環境を調整することによって、立ち直ることができる余地が大きいと考えられているためです。すぐに「保護観察」とするには少年や周囲の環境の問題が大きすぎる場合であっても、ある程度の期間中に問題を解消できる見込みがあるときは、杓子定規に「少年院送致」としてしまうのではなく、「試験観察」が選ばれる余地があります。

2.試験観察の方法
 試験観察には、大きく分けて在宅と補導委託の2つの方法があります。「在宅試験観察」とは、少年を家庭に戻して調査官に観察させる方法です。これに対して「補導委託」は、家庭に戻さずに、少年を施設や民間の個人などの第三者に預ける方法で、そこで仕事や通学をさせながら職業指導や生活指導をしてもらいます(正確には,これを「身柄付き補導委託」といいます)。

3.ケース①(身柄付き補導委託)
⑴ それでは、私の担当した事件から、具体的なケースで弁護士が試験観察を目指す場合にどんな活動をしているかを紹介しましょう。
 A少年は万引きと無銭飲食で逮捕されました。外国籍で、両親が小さい頃に離婚し、お父さんは所在不明、お母さんは少年を気にかけているものの、県外で再婚相手の家族と暮らしていて手一杯、同居は不可能とのことでした。また、就業先の社長も復職は難しいとのことでした。
 しかし、少年は明るく素直で、「作ったものが人に喜んでもらえるのが嬉しい。」と仕事の楽しさを語ってくれましたし、非行は複数あるものの、凶暴なものはありませんでした。立ち直りの可能性は相当程度見込めそうで、帰るところも仕事もない、という点が問題でした。その旨を調査官に報告した結果、調査官も動いてくれ、お母さんが住む県の施設に身柄付き補導委託となりました。少年には、規則正しい生活を心がけ、しっかり働いて一人暮らしに必要なお金を貯めるという目標が与えられました。

⑵ 施設に送られて間もなく私が少年を訪問すると、少年は率先して庭掃除をするなど「優等生」でした。しかし、しばらくすると様子が変わってきます。毎月施設から裁判所に送られてくる経過報告を見ると、最初「優等生」だった少年も、気が緩んできて仕事を休んでしまったり、施設の先生とぶつかったりしているようでした。それ以降、私は調査官と綿密に連絡をとり、二人三脚で少年の指導にあたりました。何度も施設に足を運んで少年と話し合い、施設の先生との意見交換を重ねるとともに、お母さんとも今後の少年との付き合い方を擦り合わせて、親子が協力できる体制をつくれるよう試行錯誤しました。また、少年が働いて得たお金で被害弁償も行いました。

⑶ その結果、少年は約半年にわたる試験観察期間を大きな問題を起こすことなく過ごし、少年の監督を諦めかけていたお母さんと少年の関係も改善し、最終審判で保護観察となりました。審判には施設の先生も出席してくれ、「少年とはぶつかることもあったけれど、よく頑張った。とても印象に残る子だった。」と話してくれました。少年はその後、お母さんの自宅近くにアパートを借り、仕事をしながら暮らしています。

4.ケース②(在宅)
⑴ 2例目は在宅試験観察になったケースです。
 携帯電話の万引き、校内での傷害事件で逮捕されたB少年は、被害回復もでき、非行癖があるともいえなかったのですが、知能指数が低位で理解力が十分ではなく、反省を深めることができていませんでした。また、家庭の事情から長く児童養護施設で暮らしていたのですが、施設の指導に反発して脱走を繰り返しており、施設に戻すことは難しい状況でした。他方で、お母さんの家に戻って高校受験したいと希望しており、理解力の観点から少年院での矯正教育が相当とも思えませんでした。また、そこで、私は早い段階から調査官にこれらの事情を伝えるとともに、試験観察にするように働きかけ、その通りの中間処分が下されました。

⑵ 試験観察期間中の少年は、無断外泊をしない、不良交友をしないといった調査官との誓約を良く守り、家事を率先してお母さんを良く助け、自主的に勉強して希望の高校に合格しました。この間、調査官と私が交互に少年と面談を重ねましたが、少年は明らかに顔つきも変化していき、私も頼もしく感じていました。調査官も同じ趣旨の報告を裁判所に上げていました。

⑶ しかし、最終審判直前に別の友だちと再非行をしてしまったのです。少年は少年院送致となってしまいました。私が少年に対して「あんなに頑張っていたのに、どうしてやってしまったの。」と聞くと、「おれも分からないよ。」と悲しそうな顔をしていたのが忘れられません。調査官も非常に残念がっていました。

5.まとめにかえて
 試験観察は、少年の軌道修正がうまくでき、環境調整を適切に行うことができれば劇的な変化が得られます。その一方,時が経過するうちに少年の赤裸々な姿が明らかになってしまうという怖い側面もあり,少年本人の「やり直したい」という強い意欲や家族の支援が不可欠です。
 ところで,試験観察は、裁判所にとっても負担が大きいからか、件数が減少傾向にあります。最近では家庭裁判所に送致される少年保護事件の件数年約10万件に対し、1000件強しかありません(平成27年版犯罪白書)。このままでは,裁判所も,弁護士も,試験観察の経験を積むことができないという悪循環になってしまうのではないかと危惧しています。
 ほとんどの少年事件は、罰を与えるよりも、少年の方向付け、周囲の環境整備を適切に行った方が、よい結果が得られます。少年法にしかないこの手続き、もっと活用されてもいいのではないでしょうか。

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