弁護士の事件簿・コラム

委員会活動について

弁護士 大村 俊介

1.弁護士会で外国人問題に取り組む
 弁護士は,日常の業務に加え,弁護士会の委員会活動への参加を通じて,個人のレベルでは解決の難しい様々な法的問題に取り組んでいます。私は弁護士登録以来,外国人の人権問題に関心があり,横浜弁護士会人権擁護委員会の外国人部会,関東弁護士連合会の外国人の人権救済委員会で活動しています。

2.なぜ外国人なのか
 私が大学時代にオセアニアに留学したのがきっかけです。私が留学した大学は,アジアからの留学生が3~4割を占めていたのですが,留学生の支援制度が充実していたり,授業のやり方やレポートの出し方が統一され合理的にできているなど,留学生でも馴染みやすい仕組みができていました。街に出ても,拙い英語でも粘り強く聞いてくれる雰囲気があり,各国の料理店が軒を連ねるなど,多くの文化が優劣なく共存しているのが印象的でした。
 このような環境に触れた私は,外国人が日本で学んだり,才能を発揮できる機会を増やすことができれば素晴らしいだろう,と考えると同時に,日本でも外国人を受け入れる仕組みを整え,多くの人に「日本で学んでみたい」「日本で働いてみたい」と思ってもらえたら,と考えるようになったのです。

3.私の活動
 外国人にかかわる法律問題は多岐にわたりますが,ここでは,在留資格,朝鮮学校への補助金問題について触れたいと思います。

(1)在留資格
 日本で活動する外国人にとって,すべての活動の基盤となっているのが在留資格,いわゆるビザです。なぜすべての活動の基盤かといえば,在留資格には期間があり(永住除く),更新ないし変更ができないと,日本に仕事があっても,家族がいても,また帰るべき故郷がなくても,関係なく国外退去となってしまうからです。これを悪用して,妻に永住資格をとらせず,「言うことを聞かないと更新できないようにするぞ」などと言って服従を強いる日本人夫や,低賃金で雇い続けるため,10年,15年働いても定住資格の取得に協力しない雇用主もいて,これでは両性の平等(憲法24条)も労使対等の原則(労働基準法2条)も,根底から蝕まれてしまいます。
 私の所属する委員会では,在留資格の問題で悩む方,特に収容されてしまった方が法律家の援助を受けられやすくするための制度の構築に取り組んでいます。具体的には,法律相談を担当できる弁護士を募ってリストを作成し,収容施設で定期的に相談会を開催したり,入国管理局や市役所にチラシを置いて周知したり,通訳を派遣してくれる団体と連携する等の活動を行っています。今取り組んでいることの一つは,収容施設が遠く(関東では牛久,品川,横浜),途中で収容先が替わることも多いために,弁護士,通訳の確保が困難だという問題で,スカイプなどを利用した遠隔法律相談の実現に向けて,入国管理局に働きかけを行っているところです。

(2)朝鮮学校への補助金問題
 北朝鮮がミサイルを発射したり,拉致問題で紛糾する度に,地方議会では朝鮮学校への補助金の停廃止が取り沙汰されます。私もかつては,問題を正面からとらえず素通りしてしまっていた面がありましたが,昨年,横浜の朝鮮学校を訪問して見方が変わりました。
 校舎は明らかに老朽化しており,廊下は真っ暗で,教員の給料の支払も滞っているとのこと。半分以上が韓国籍という生徒は,私たちを見かけると笑顔で挨拶してくれる普通の生徒たちでした。他方で,補助金問題が持ち上がるごとに,学校側は拉致問題を明確にした授業を実施することや,授業を公開することを求められ,議員らがぞろぞろと見に来るのだそうです。日本には,他にも外国人学校が多数ありますが,特定の教育を押し付けられたり,補助金の停廃止を突き付けられている学校はありません。
 私が最も強く感じたことは,国際情勢・政治情勢について何の責任もない生徒たちに,このような不利益が課されていいのか,ということでした。朝鮮学校の実態を,もっと多くの人に知って欲しいと思いました。私の所属する委員会では,このように現地に足を運んで実態を調査したり,弁護士会を通じて声明を出すなどの活動を行っています。

4.むすび
 私が子どもの頃と比べて,日本も外国人がいることが当たり前になり,今後もその傾向は拡大していかざるを得ないと思います。しかし,まだまだ,日本人は外国人との付き合いが下手だなと感じており,外国人をお客さんとしてではなく,コミュニティの一員として受け入れられる社会を,作っていければと考えています。そのためには,個人個人の努力に頼るだけでなく,外国人の人権を適切に守ることができる透明性の高い仕組みをつくっていくことが必要です。まだまだ道は長いですが,また報告できればと思っています。

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