2年目に入った福島第一原発・損害賠償訴訟

弁護士 栗山 博史

2015年2月10日

1 はじめに
 福島第一原発事故(2011.3.11)による被害者を支援する活動については、2012年2月、2013年9月の2度にわたってコラムを書きました。
 2012年は、福島原発被害者支援かながわ弁護団の活動と、原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)への申立を通じた解決についてご紹介いたしました。また、2013年には、神奈川でも全国的な動きに合わせて、国と東京電力を相手に損害賠償請求の裁判を提訴した動きなどを報告いたしました。今回は、裁判を提訴し、第1回口頭弁論期日(2014.1.29)以降、1年ほど経過し、7回の期日が開かれましたので、裁判の内容・争点についてご紹介したいと思います。

2 裁判では何を問題にしているのか
 大きく分けて、裁判の争点は、責任論と損害論(因果関係論)です。

① 責任論
 原子力発電所の事故があった場合に、その事故によって人々や企業にもたらした損害については、原子力事業者は、事故の発生について過失(落ち度)がなくても賠償をしなければならないと決められています。これは、1961(昭和36)年に作られた「原子力損害の賠償に関する法律」(「原賠法」と呼ばれています)に書かれています。通常、事故があった場合に加害者の責任を問うためには、加害者に過失が認められなければなりません。しかし、その原則を貫いてしまうと、原子力事故が万が一発生した場合の被害は大きい反面、加害者の過失を証明するのは、専門的でなかなか難しいので、被害者を早期に救済するという観点からは不都合が生じてしまう。そこで、原子力事業者はもし原発事故を発生させた場合には過失がなくても責任を負うものと定められたのです。
 したがって、東電の損害賠償責任を問うためには、この原賠法を使うことで早期に賠償を求めることができないわけではありません。

 しかし、かながわの訴訟も含め、全国の多くの弁護団は、あえて、東京電力の「過失責任」と、原子力事業を規制・監督する国の国家賠償責任(過失責任)を追及しています。今回の原発事故を生じさせた大元の原因は、いうまでもなく、マグニチュード9という巨大な、しかも、震源が複数の地域にまたがる連動型の地震と、それに伴う津波でした。これは「想定外」の自然現象だった、したがって、今回の事故の発生も予想することができなかったなどと言われるのですが、本当にそうなのか。過去の資料をひもといてゆくと、決してそうではないことがわかってきます。もし、これが、東電や国の誤った判断による「人災」であったのだとしたら、その責任を明確にしておかなければ、今後も同じことが繰り返される危険性は高いといえます。弁護団はこのような思いから、あえて、東電の「過失責任」と国の監督責任を追及しているのです。

② 損害論(因果関係論)
 損害論はさまざまなテーマがありますが、ここでは、今後大きな争点となるであろう「区域外避難者」の損害についてお話しします。ご承知のとおり、原発立地の周辺地域の住民に対しては、政府等から避難指示が出されました。原則として、福島第一原発から半径20kmの同心円上の地域の方々です。しかし、福島県内から県外に避難された方々の中には、この避難指示区域の外に居住されていた方々が多数いらっしゃいます。政府はこの方々を「自主的避難者」と呼んで、避難指示区域内の方々に対する賠償と区別して、ほとんど損害賠償をしていません。

 しかし、このような区別が本当に合理的なのかという疑問があります。居住地域に残留している放射線量は、福島第一原発から半径20kmの内と外とで截然と区別されるわけではありません。そして、そもそも、どこまでの範囲に対して避難指示を出すか、という区分け自体、事故直後の混乱状態の中で、政府の政治的決断で決められたもので、必ずしも科学的なものではありませんでした。政府は、人々の安全を考えれば、広い地域の人々に避難指示を出してもよかったのですが、そうするとその地域に人がいなくなってしまい地域が崩壊するとか、受け入れ先も混乱するなどといった事情も考えて、避難指示を出す範囲が決められたのです。

 避難指示が出ていない地域だとしても、とりわけ、成長の途上にある未成年の子どもは放射線の影響を受けやすいですから、未成年の子どもがいる家族は不安です。その不安から、県外での避難生活を選択するということには、合理性があるのではないかと思うのです。私たち弁護団は、そのような選択をした区域外避難者の損害も、原発事故による損害として、東京電力や国が賠償すべきであると主張しています。

3 まずは責任論の攻防
 特に国家賠償については、国の過失がなければ損害賠償は認められませんから、国の過失を明らかにしてゆくことが当面の課題になります。
 原子力事業者は東京電力ですが、東京電力に原子力発電所の設置許可を与え、その後も、必要な規制・監督を行う立場にいたのは経済産業省(旧通商産業省)です。電気事業法という法律があって、経産大臣は、事業用電気工作物(原子力発電所も含まれます)の安全性を確保するために、省令で技術基準を定め、必要ならば技術基準を改訂し、そして、原子力発電所がこの技術基準に適合しているかどうかをチェックし、もし適合していなければ、修理・改造や、運転を一時的に停止することを求めることができるわけです。
 経産大臣(実際には原子力安全・保安院)は、このように、強力な規制権限を持っているのですが、この権限をしっかり使ってチェックしてきたのか。私たちは、今後、ここを問うていきます。

 1995年に阪神淡路大震災が起こり、それまでの防災対策が見直されることになりました。地震対策については、それまでは、過去に実際に発生した地震をベースに対策がとられていたのですが、政府内にも、それだけでは足りないという認識が広まりました。
 1995年に政府に設置された「地震調査研究推進本部」は、2002年7月、日本海溝の地震についての「長期評価」を発表します。日本海溝というのは、東北地方の太平洋沖約200kmを南北に貫く長さ約800kmの海溝です(【図1】の赤の縦線です)。ここで太平洋プレートが北米プレートの下に沈み込み、歪みによって蓄積されたエネルギーが地震を引き起こしてきました。政府地震本部の「長期評価」は、1611年の慶長三陸沖地震、1677年の延宝房総沖地震、1896年の明治三陸沖地震という、マグニチュード8を超える3つの地震が、【図2】の「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」の中で発生していること、そして、北部(三陸沖)や南部(房総沖)で起きるなら、中部の宮城沖、福島沖、茨城沖でも起きる可能性を否定できない、ということを明確に指摘していたのです。 過去に実際に発生した地震にとらわれることなく、日本海溝の構造上から、将来の地震を想定したのです。


【図1/政府地震調査研究推進本部ホームページより】


【図2/政府地震調査研究推進本部 ウィキペディア解説より引用】

 東京電力は、「長期評価」から遅れること6年後の2008年3月、「長期評価」の想定に基づいて津波の高さを試算し、福島第一原発に15mを超える津波が来るというシミュレーション結果を得ていました。しかし、こういった試算は地震・津波対策には生かされませんでした。そのような想定をすれば、対策を講じるために莫大な経費がかかる、原発の運転を止めなければならなくなってしまう、という経済的な事情に基づく判断があったのです。そして、結局、東北地方太平洋沖に巨大地震が連動して発生し【図3】、福島第一原発の電源設備は津波被害により浸水し、原子炉を冷却する機能を奪われました。


【図3/朝日新聞より引用】

 原発事故は、今回の事故がそうであったように、発生すれば、人々に計り知れない損害を与え、郷土さえも根こそぎ奪ってしまいます。その被害の甚大さ、広さ、長さなどを考えると、万が一も発生させてはいけない事故です。そういう原発の特殊性からすれば、何より安全側の発想に立った対策が必要だった、そして、もし、東京電力が対策をとり、国も規制措置をとっていれば、今回の事故は未然に防ぐことができた、ということを強く訴えてゆきたいと思います。

4 今年から来年が正念場
 神奈川では、提訴してから2年目に入りましたが、先行して提訴された福島地裁の訴訟、千葉地裁の訴訟などでは、すでに証人尋問等が始まるなど、今年は各地で同種訴訟の判決に向けた動きが出てくることになります。
 かながわ弁護団も、他の弁護団との連携協力を深めつつ尽力したいと思います。

●福島原発被害者支援かながわ弁護団のホームページ
 http://kanagawagenpatsu.bengodan.jp/

「弁護士の事件簿・コラム」一覧へ >>>