弁護士の事件簿・コラム

少年のココロ~付添人の仕事とは

弁護士 大村 俊介

 はじめまして,弁護士の大村俊介です。本年7月から,大さん橋通り法律事務所の一員となりました。

 今年の6月18日から改正少年法が施行され,少年に弁護士が関与する「しくみ」が変わりました。今日は自己紹介をかねて,私が担当したある少年事件について書いてみようと思います。弁護士がふだんどんなことを考えて行動しているか,少しでも知っていただければ幸いです(注:少年とは,法律では満20歳未満の男女のことをいい,女性も含まれます)。

■事件との出会い
 私が出会った事件は,中学で不登校になり,遊ぶ金欲しさにデリヘルで働くようになった少女が,次第に自分の体を売ることに苦痛を感じるようになり,「スタッフ」と彼らが呼んでいた仕事――出会い系サイトでデリ嬢本人に代わって援助交際の相手を探し,マッチングするという仕事――に鞍替えして数か月実働していたところ,未成年者の売春を斡旋した,という児童福祉法違反の容疑で逮捕・勾留された,という事件でした。

■少年事件のしくみ~「捜査段階」と「審判段階」
 少年事件は大きく,「捜査段階」と,「審判段階」に二分できます。「捜査段階」とは,逮捕・勾留から,家庭裁判所(以下,「家裁」といいます)に送致されるまでをいいます。少年事件の場合,成人のように地方裁判所に起訴されて公判を受けるのではなく,家裁に送られて「審判」を受けることになる点が特徴です。

 少年審判では,「刑罰」が下されるのではなく,「少年院送致」「保護観察」など,福祉的見地から,少年の「更生」のために,裁判所が考える最も効果的な処分が下されます。この家裁送致から審判までを,「審判段階」といいます。

 このように,少年と成年で「しくみ」に違いがあるのは,少年は,成人と比べ未熟だからです。周囲の環境に影響されやすい反面,きちんとした環境をつくってあげれば,それに合わせて柔軟に物の考え方や行動が変化することが期待できる,つまり「更生」しやすい,と考えられているのです。

■少年に弁護士が関与するしくみ
 少年・成人の間では,弁護士の関与の方法も違います。例えば,成人では,弁護士は捜査・公判段階を通して,「弁護人」という呼称が使われます。これに対し,少年事件では,家裁送致の前後で「弁護人」から「付添人」へと呼称が変化します。先ほど述べたとおり,少年審判は「刑罰」を下す場ではなく,少年の「更生」の為に最も有効な手段を考える場とされています。呼称の違いは,弁護士と裁判所は対立する存在ではないのだ,という少年審判の特徴を反映したものと言えそうです。

 違いは,それだけではありません。実はこれまで,少年事件には,少年の権利の擁護・代弁の為の制度が不十分でした。というのも,お金のない人の為に国が付添人を選任する「国選付添人制度」の対象事件は,これまで殺人・傷害致死などの重大事件に限られており,傷害,恐喝,詐欺,窃盗といった,少年事件でよく見られるものは対象外でした。これらの事件について弁護士を付けようとすれば,私選でやるしかありませんでした。これらの犯罪に関する裁判は,成年であれば,100%弁護士が付けられるようになっているのと比べて,いかにもアンバランスな制度設計だったのです。

 弁護士会はこのような制度には問題があると考え,これまで一貫して,国選付添人の対象事件拡大を主張してきました。また,審判段階で国選付添人が付けられないからといって,付添人の援助が必要な少年を放置しておくわけにはいきませんから,実際,金銭的に恵まれない家庭であっても全件で付添人をつけることができるよう,弁護士同士が特別会費という形で弁護士会にお金を出し合ってその基金から担当弁護士に報酬を払うという,「少年保護事件委託援助制度」を運用してきました。

 冒頭に述べた今回の改正少年法では,こうした努力の積み重ねと弁護士会の粘り強い運動の結果,国選付添人の対象が拡大され,傷害,窃盗等も,国選付添人の対象事件となったのです。

■国選付添人に選任されず
 私の事件は,法定刑が10年以下の懲役という比較的重いもので,成人であれば,当然に国選弁護人を付けうる事件でした。ですから私も,改正法のもとで当然に国選付添人に選任されると考えていました。ところが,裁判所からの回答は,選任の必要性について要望書を出したにもかかわらず,「選任しないことになった」,というものでした。

 その理由は,以下のようなものです。改正少年法は,国選付添人の対象事件に該当すれば,全件選任するのではなく,「審判の手続に弁護士である付添人が関与する必要があると認めるとき」に選任できるとして,家裁に裁量を与えています。そして,私の事件を担当していた裁判官・書記官はこの「必要があると認めるとき」という文言を,重大な処分が見込まれる場合,と解しており,今回は重大な処分が見込まれない,というのです。

 私は担当書記官に,「対象が拡大されたのだから,国選付添人を選任すべきではないか」と食い下がりましたが,返答は「残念ながら再考の余地はない」,というものでした。そこで,私が逆に,「重大な処分が見込まれない,ということは,少年院送致にはならないと考えていいんですね」,と確認すると,担当書記官は,「そういうことになりますかね・・・」,と回答しました。

■付添人の役割の重要性
 日本の法律では,売春する女性は保護の対象であり,処罰されません。しかし,これを管理・斡旋して助長する行為は厳しく処罰されます。私の担当した少女も,売春させる側に回れば,処罰されることは常識として知っていました。しかし,なぜ自分がいけないことをしてしまったのか,反省を自分の口で語ってもらえるようになるまでは,かなり時間がかかりました。

 審判の目的は,少年の更生です。家裁も,確かに人と予算を掛けて熱心に調査をしています。しかし,その活動にも,おのずと限界があります。弁護士が弁護人,付添人として少年事件に関わることで,捜査段階から一貫して少年とコミュニケ-ションがとれますし,少年が更生するにあたって必要なことは何かを時間をかけて掘り起し,それに向けて働きかけていくことができます。具体的には,被害者への謝罪や示談交渉,保護者や学校、職場などとの環境調整に積極的に関わっていくことが可能となります。家庭裁判所の調査官と弁護士が連携して、より細やかな環境調整が可能となるのです

 この事件では,検察からの送致意見が,「少年院送致(長期)」であり,親の監督能力は「なし」,就業先「なし」でした。私は,親と頻繁に連絡をとり,日曜日に80㎞離れた自宅を訪問して今後の少年の監督について話し合い,陳述書や誓約書を家裁に提出しました。また,逮捕の直前にやめてしまったバイト先の関係者に連絡を取りました。最終的には,事業責任者の方が少年鑑別所まで来て少年と面談してくれ,バイト先に戻れることになりました。これらの活動もあって,審判では,裁判官から「あなたが再び同じ過ちを犯してしまうとは思わない」「周囲に恵まれているのだから,頑張って」という趣旨の励ましの言葉もいただき,無事保護観察になりました。

 このように,付添人の役割は重要です。弁護士が関与して初めて,裁判所が思い描くような反省,環境調整ができる例は,数えきれないほどです。私も,その役割に恥じないよう,できるだけのことは労をいとわず,手を尽くしたい,という考えで少年事件に当たっています。

■めざすべき方向
 今回は結果的に,国選付添人には選任されませんでしたが,日弁連の少年保護事件委託援助を利用して,付添人として活動することができました。しかし,これで本当に良かったのでしょうか。付添人が担う,家裁の機能補完的役割に対しては,国は弁護士会任せにするのではなく,きちんと予算を付けるべきではないでしょうか。国選付添人の役割を認めて対象事件を拡大した以上,その範囲では,全件付添人を選任することを原則とすべきです。
 制度を作っても,運用が変わらなければ意味がありません。運用を正しい方向に是正し,人権保障が全うされるようにしていくのも,弁護士の重要な使命です。これからも,一件一件の事件を大切にするとともに,国選付添対象事件で全件国選付添人が選任されるよう,繰り返し意見を発信して行きたいと思っています。

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