相続財産管理人の仕事について

弁護士 野呂 芳子

2014年7月7日

1 はじめに
 ここ数年、私の仕事の中で「相続財産管理人」という仕事が大変増えています。
 一般には、あまりなじみのない事件かもしれませんが、高齢化社会の中で、今後増えていくことが予想される分野ですので、今回はこの仕事についてご紹介させていただこうと思います。

2 相続財産管理人とは?
 ある方が亡くなられたけれども、法定相続人(配偶者、子供、親、兄弟、甥姪)が見当たらない、あるいは法定相続人はいるけれども全員が相続放棄をしてしまった・・・といった事情で、誰も故人の遺産を受け取る方がいない場合に、利害関係人または検察官の請求によって、裁判所に選任されるのが「相続財産管理人」です。

3 相続財産管理人の仕事は?
 簡単にいうと、①相続人の捜索②相続財産を集め、清算すべきものは清算し、最後に残ったものがあれば国庫に引き継ぐ、という2点が主な仕事です。

4 相続人の捜索について
 ①の相続人の捜索については、一般には、戸籍でたどれなかった相続人が発見されることなどまず想定できず、官報に「相続人がいたら名乗り出てください。」という趣旨の公告を一定期間載せてもらって、「やはり相続人はいませんでした。」と確認するだけで終わります。
 しかし、事実は小説より奇なりで、私が担当した中で、1件だけ、戸籍には記載されていない実の妹さんが相続人として名乗り出られたケースがありました。
 戦前には、養子を実子として届けたり、あるいは実子を他の夫婦の実子として届けたりすることがさほど困難ではなかったようです。
 私は、名乗り出られた妹さんにお会いしてお話を伺い、間違いないようだとは思いましたが、既に火葬され、納骨もされた故人との姉妹関係を証明していただくことなどできるのだろうかと首を捻りました。裁判所に相談してみてもはっきりした回答はなく、それほどレアケースだったのでしょう。
 ただ、この件は、妹さんが名乗り出てくださった時期が早く、故人の居室の明け渡し前であったことが幸いでした。居室の明け渡しの際に、ブラシに残った毛髪等の採取の機会があり、これをDNA鑑定に使用し、姉妹関係が高い確率であることが証明されたのです。また、妹さんが、姉である故人との思い出を非常に大切にされており、姉妹であることを示す資料を数多く取っておかれていたこともあり、最終的には、「妹」として認められ、遺産を受け取っていただくことができました。私も驚いた事案でしたが、受け取られるべき方に受け取っていただくことができたということでほっといたしました。

5 相続財産の収集について
 一般には、こちらの方が主たる仕事となります。
 相続財産管理人が選任されるようなケースでは、長年単身で生活されていたような場合や、他者との関わりを一切絶っておられた場合も珍しくないので、どこにどんな資産があるのか容易に判明しないことも多いのです。
 まずは、ご自宅に伺って、財産価値のある遺品を探させていただくことになりますが、入る前は、必ず、黙祷してから入らせていただきます。
 自宅内を拝見していると、故人の人となりやその方の一生が感じられ、しみじみとした気持ちになります。特に、その方が大切にされていたことが伝わる品や、アルバムに映った写真などは、最終的には廃棄するしかないとはわかっているのですが、毎回胸が痛み、せめてもという思いで一通り目を通しています。
 生前に全く面識のなかった人間が、最後の整理をするというのも、人の縁の不思議さだと思いますが、遺産は、故人の一生をかけて残されたものですから、きちんと確保することが故人の人生を尊重することであると考えて、必死に探索し、できるだけ多くの遺産を確保するために努力しています。

6 特別縁故者について
 このようにして収集・確保した遺産について、相続人不存在が確定しますと、「特別縁故者」からの財産分与の申し出を受け付ける期間になります。特別縁故者というのは、相続人ではないものの、故人と特別な関係にあった方です。
 そのような方から申し出があった場合、故人の遺産を分けるのにふさわしい「特別縁故者」といえるのかどうか、いえるとしても遺産のうちいくらを分与するのが相当なのかについて、管理人として調査し、意見書を裁判所に提出し、裁判所の判断を待つことになります。

7 管理の終結、そして最後に
 特別縁故者への財産分与が終了した場合、あるいは特別縁故者として財産分与すべき方がいなかった場合、残余財産は確定しますので、国庫への引き継ぎ手続きとなります。
 こうして国庫に引き継ぐお金は、いわば故人の人生の代替物ですから、どうか有益に使ってほしいと毎回願っています。
 また、この仕事に携わるごとに、人生の有限性を痛感すると共に、限りある日々を精一杯生きなければという思いを新たにしています。

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